曖昧さの神経学(Zeki et al., Consciousness and Cognition, 2004)
みなさんこんにちは!
微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。
今日も論文を読んでいきます。
曖昧さの神経学(Zeki et al., Consciousness and Cognition, 2004)
ポイント
■脳と知識の獲得
・「曖昧さ」は多くの優れた芸術作品の特徴であり、作品の芸術的・審美的価値を大幅に高める属性
・脳は私たちが見ているものを構築する積極的な参加者であり、脳が受け取る多くの信号に意味を与え、それによって世界についての知識を得るのですが、これはもちろん意識的な状態でのみ可能
・脳にとっての必須条件は、物体や状況を本質的で不変的な特徴に基づいて識別するという役割を果たす上で、不必要なものをすべて排除すること
・多くの解決策が考えられるシナリオは、何かの作品や場面、物語が未完成のまま放置されている状態と密接に関連していることは自明
▶この場合も、脳は様々な方法で作品を完成させることができ、そのどれもが他のものと同様に妥当なものである
■「脳に選択肢がない」
・遺伝的に決められた神経学的な装置や配線がある以上、選択肢がないという意味
・表面には異なる波長の光に対する明確な反射率があり、脳はこれらの表面とその周囲の同じ波長の光に対する反射率を比較して、ある波長の光と別の波長の光に対する反射率がどちらが高いかを判断するだけ
・脳のカラーセンターであるV4複合体
■カニッツァの三角形
・「未完成」の絵を三角形として解釈するには、当然ながら意味的な要素が必要であり、それ自体が経験を通して形成
・信号のパターンに「トップダウン」の影響を与えて、一定の解釈をさせていると考えてきた
・カニッツァの三角形や色を意識するには、前頭葉などの「上位」の領域が、曖昧な図形をある方向に解釈するように仕向けなければならないということ
▶もしそうであれば、脳が色を構築する際には、思考プロセスに関係する前頭葉のような皮質領域が働いており、その活動は画像実験で証明できると期待
▶しかし、画像実験によると、人間が三角形のような不完全な図形を見て解釈するとき、脳内の活動は前頭葉を伴わない
■Perceptual Ambiguity
・カニッツァの立方体:3つの解釈が可能
・いつでも1つの解釈しかできず、その解釈は他の解釈と同様に有効である
・ ある瞬間にはある細胞の活動が知覚的に優位に立ち、別の瞬間には別の細胞の活動が優位に立つという意味で、この知覚的なメタスタビリティはV3の細胞の反応の不安定さに起因すると考えるのが妥当
■「第三の」領域による曖昧さの解消
・二重安定性や準安定性が同じ対象や属性に関わる場合、同じ皮質領域が関与しているという仮説
・(ルビンの壺)2つの異なる領域が関与しており、顔の認識に関わる領域から物体の認識に関わる領域へと知覚が移行する際に、「第3の」領域が関与するのではないかと考えられる
▶顔から花瓶への切り替えでは、視覚野の中でも物体認識を行う領域を含む「紡錘状回」の活性化部位が変化
・ある条件から別の条件へと知覚が変化するときには、前頭葉皮質が働いていることも示されている
■高いレベルの曖昧さ
・例えばフェルメールの「真珠の耳飾り」という絵画に与えられる複数の物語的な解釈
・この絵は単一の安定したイメージであり、唯一の変数は、見る人の脳が彼女の顔の表情について、同じように妥当な解釈をいくつか提示できる
・彼女は、誘っているようでいて遠い存在であり、エロティックであるようでいて貞淑であり、憤慨しているようでいて喜んでいるようでもある
・曖昧さや不確実性ではなく、確実性、つまり、それぞれが他と同等の有効性を持つさまざまなシナリオの確実性である
・鑑賞者によって「仕上げられた」に違いないという結論に達するほど、自己完結的な解釈がなされることが多い
・複数の解釈を与えることができる脳の一般的な能力と結びついている
・曖昧さそのものが美的に好ましいというわけではなく、むしろ、その瞬間には1つの経験しか意識していないのに、複数の経験をすることができる能力が、刺激によってもたらされる
・この不完全な状態だからこそ、ウィンケルマンはこの作品から多くのことを読み取ることができ、さらに、少なくともトルソーの歴史を知らない人にとっては視覚的に説得力のあるものとなった
コメント
少し古い論文なので、脳領域の具体的な記述があまりなく、少し物足りなさを感じるが、引用したい文はいくつかあった。俳句の曖昧性も解釈が2つ以上できるものが多く、それらを高次な(Semanticな)曖昧性と呼んでもいいかもしれない。
論文
Zeki, S. (2004). The neurology of ambiguity. Consciousness and Cognition, 13, 173–196. doi:10.1016/j.concog.2003.10.003