人間のメタ認知とデジャヴ現象(Kusumi, 2006)
みなさんこんにちは。
微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。
今日も論文を読んでいきます。
人間のメタ認知とデジャヴ現象(Kusumi, 2006)
背景
■様々な科学分野の研究者によって研究(Brown, 2003, 2004; Sno & Linszen, 1990など)
・デジャヴ体験は、主に精神医学や精神分析の分野で、記憶障害(例:錯覚、幻覚、統合失調症、側頭葉てんかん(TLE))として研究されてきた
・研究者たちは、ほとんどの人がデジャヴを経験するのは極度に疲労したときだけであり、一般の人にとってデジャヴは稀で異常な記憶体験であると指摘
■本研究では、デジャヴ体験を正常なメタ認知メカニズムとして説明
・このアプローチでは、デジャヴは、現在の経験が過去の類似した経験を自動的に思い起こさせる類推的想起プロセス(例えば、Wharton, Holyoak, & Lange, 1996)の中で起こると提案
・デジャヴ体験は、現在の体験とそれに対応する過去の体験との間の類似性によって生じる
・デジャヴとは、フランス語で「すでに見たもの」という意味:「現在の経験と未定義の過去の経験との間に、主観的に不適切な親近感があること」を指す
・不適切な親近感とは、新しい出来事や物に強い親近感を覚える誤認識の一種であると定義
・リアリティ・モニタリング(Johnson, Hashtroudi, & Lindsay, 1993など)に成功すると、古いと感じても実際には新しい出来事であると判断できるようになる
・親近感の判断は、メタ認知的なモニタリングに基づいている
■デジャヴの科学的説明を、二重処理説明(2つの認知機能が瞬間的に同期していない)、神経学的説明(脳の一時的な機能障害)、記憶説明、二重知覚説明(進行中の知覚処理の一時的な中断)の4つに分類(Brown, 2004)
・デジャヴの新しい記憶の説明として、3つのメタ認知的要素を統合して、類推的想起に関わるメカニズムを説明
1)暗黙的記憶のプロセスを伴う現在の経験に対する強い親近感の予備的感情
2)明示的記憶を検索した後、現在の経験と検索された過去の経験との間の類似性と非類似性を判断
3)検索された経験(プロトタイプイベント)に対するリアリティモニタリング(現在の経験が検索された経験と同一であるかどうかの判断)
■3つの研究課題
1)普通の大学生にはどのような種類のデジャヴ体験が多いのか?
2)日常生活や実験室でデジャヴを経験する際に用いられるメタ認知的・類推的想起メカニズムはどのようなものか?
3)デジャヴは適応的なメタ認知メカニズムの結果なのか?
■2種類のデジャヴ
・連想的デジャヴ:曖昧で記憶に乏しい傾向があり、環境によって引き起こされることが多く、最初は部分的に親しみを感じ、持続時間が短く、顕著な質的特徴を持たない
・主観的超常的デジャヴ:主観的な超常現象の体験で起こるもので、時間的な解離と優れた質的特徴が特徴
■Kusumi (1994)
・現在の体験を過去の類似した体験にたどるメタ認知的・類推的想起メカニズムに基づいてデジャヴュ体験を探求
・大学生202名を対象に、デジャヴ体験と類推的想起に関する独自のアンケート
・デジャヴ体験は、一般的な現象であることが観察
・「場所のデジャヴ」は、参加者の63%
・「人のデジャヴ」は、35%
・人のデジャヴを経験した人のうち、89%がどのような状況で発生したかを正確に特定
・場所のデジャヴを経験した人のうち、61%がその場所を正確に特定
・デジャヴ体験が超長期記憶や自伝的記憶に基づく
・人のデジャヴを評価する際、参加者は性格の類似性よりも外見の類似性を高く評価しており、外見の方がソース体験を想起させる手がかりとしては強い
■Kusumi (1996)
・104名の日本人大学生を対象に、場所の既視感に関するアンケート調査
・13の場所と3つの状況について、デジャヴ体験の頻度を5段階(全くない、1回、2回、3回、4回、5回以上)で評価
・これらの体験に対する手がかり(知覚的な手がかり、雰囲気、天気、気分など)の有効性についても評価
・デジャヴ体験は、会話や夢の中、道を歩いているとき、昔の村を訪れたとき、公園を歩いているとき、学校を訪れたとき、寺社を訪れたときなどに多く見られた
・参加者の62%が夢の中でデジャヴを経験した
・Brown(2004)の文献によると、デジャヴ体験の頻度は、夢の記憶(記憶力、鮮明度、夢の明晰度など)と弱い正の相関(rs = .22〜.30)
■Matsuda and Kusumi (2001)
・43名の大学生が参加
・学習段階では、無名の寺院の写真54枚が、4段階の露出頻度(0、1、3、6回)でそれぞれ1秒間表示
・テスト段階では、参加者はそれぞれの写真について典型性、親しみやすさ、好きさ、美しさ、懐かしさを9点満点で判定
・シーンの典型性は、新しいシーンの誤認識に影響を与えた:誤認識率は、非常に典型的なシーンでは46%、中程度に典型的なシーンでは29%、非典型的なシーンでは16%
・親しみやすさ、懐かしさ、好きさ、美しさの判断の間には高い相関があり(rs(516) = .30-.70, p < 0.01)
・Reber, Winkielman and Schwarz (1998)は、図と地のコントラストなどの平坦性を操作することで、特定の刺激に対するポジティブな効果(好き、かわいいなど)が増強されることを発見
・最も一般的な検索手がかりは、知覚的属性(64%、参加者の割合)、雰囲気(41%)、天候(26%)、気分(26%)の4つであった(Kusumi, 1996)
コメント
楠見先生の本から。学会発表データがまとまっていて大変ありがたい。本当はそれぞれ読みたいけれどネットではヒットせず…
論文
Kusumi, T. (2006). Human metacognition and the déjà vu phenomenon. In K. Fujita & S. Itakura (Eds.), Diversity of cognition: Evolution, development, domestication, and pathology. Kyoto: Kyoto University Press, 302–314.