美術鑑賞における瞳孔の反応:美的感情の影響(Kuchinke et al., PACA, 2009)
みなさんこんにちは!
じんぺーです。今日も論文を読んでいきます。
美術鑑賞における瞳孔の反応:美的感情の影響(Kuchinke et al., PACA, 2009)
結論から言うと、処理の流暢さが高いほど,明確な分類の時点での瞳孔の拡大と関連していた
背景
■絵を見ることで得られる快感と「意味を把握して理解した」ことの間に密接な関係があるとする理論(Russell, 2003, p.100)
・説明的なタイトルや詳細なタイトルなどの付加情報は、絵画の快感評価を高めたり(Russell, 2003)
・理解度を高めたりすることが示されている(Leder, Carbon, & Ripsas, 2006)
・線画の可視性の関数として変化する処理の速さが、好みの評価とそれに対応する顔面筋電図の反応に影響するという証拠を示した:処理しやすい絵は、より高い嗜好性評価と、ポジティブな感情を示すことで知られる大頬骨の領域の活性化を引き起こした(Winkielman & Cacioppo, 2001)
・芸術作品は、曖昧さが解消さ れるまで、知覚と認知の処理を必要とすることが多い(Leder et al. 2004)
■瞳孔指標
・美的体験の評価(Hofel & Jacobsen, 2007; Jacobson & Hofel, 2003; Lengger, Fischmeister, Leder, & Bauer, 2007)や,プロセッシング・フルエンシーに関連した美的感情(Winkielman & Cacioppo, 2001)をさらに評価するために,心理生理学的な測定が経験的美学の分野に導入
・タスクで誘発される瞳孔反応は,認知的な処理と同様に,情動にも敏感であることが確実に示されている(Beatty, 1982; Mudd, Conway, & Schindler, 1990; Steinhauer, Boller, Zubin, & Pearlman, 1983; Vo et al., 2008)
・記憶課題に伴う認知的負荷の大きさ(Beatty & Kahneman, 1966)や,情動処理に伴う認知的負荷の大きさ(Hess, 1965; Janisse, 1974)によって変化する
■感情処理における役割については、2つの相反する提案
・Hess (1965) は、ポジティブな写真を見ているときは瞳孔が拡張し、ネガティブな素材を見ているときは瞳孔が収縮するという、情動刺激に対する双方向の瞳孔反応の仮説を論じた
・他の研究者は、実際の価値観とは無関係に情動刺激に反応して瞳孔が拡張することを見出した (Janisse, 1974; Steinhauer et al., 1983; Partala & Surakka, 2003; Vo et al., 2008)
■芸術関連
・Libby,Lacey,Lacey(1973)は,美術品に対する瞳孔の反応を測定
・彼らは、不快なスライドは快感のあるスライドよりも大きな瞳孔の拡張をもたらし、どちらも中立のスライドよりも拡張しないことを観察
・作品の複雑さや興奮度とは無関係に、面白いと評価された作品ほど瞳孔の開きが大きくなる
・アート刺激の初期の知覚的分析は、後の明示的な分類や評価の段階よりも感情的でないと経験される可能性
・この課題では,キュービズム絵画に描かれた身近な物体を認識した瞬間を即座に示すことが求められた
方法
■参加者:美術初心者(M = 27.5; SD = 3.8)である女性25名と男性10名が参加
■刺激
・キュービズム絵画のカラースライド39枚
・60枚のキュビズム絵画が、抽象度の評価が高くなるが重ならない3つのリストに分けられた
・各リストの13枚のスライドは、これらの3つの実験リストが、平均抽象度(以下ではコンテンツアクセシビリティと呼ぶ)に関しては有意に異なる
■手続き
・赤外線カメラを用いて,240Hzのサンプリングレートで瞳孔径を記録
・絵に描かれた具体的な物体を認識したら,すぐにマウスボタンを押すように指示された
・ランダムな間隔で,被験者が絵の中で何を見たのかを尋ねる質問が画面に表示された(これらの質問は、被験者が指示に正しく従い、認識可能な物体を満足に認識したときにのみ回答することを保証するために行われた)
・テスト段階の後、被験者には39枚の実験スライドすべてが高画質で印刷されたアンケート用紙が配られ、複雑さは「低い」(1)から「高い」(5)、抽象性は「表現的」(1)から「抽象的」(5)、親しみやすさは「よくわからない」(1)から「非常に親しみやすい」(5)、好みは「好きではない」(1)から「非常に好き」(5)の5段階で評価してもらった
結果
■応答時間と嗜好評価に関する2つの反復測定ANOVA
・応答時間
・処理流暢性の主効果が見られ,F(2, 52) = 126.671, p < 0.001; [eta]2 = 0.830となった:平均応答時間は,処理の流暢性が高いキュービズム絵画を処理したときに最も短い応答時間を示し,処理の流暢性が低い絵画を処理したときに最も長い応答時間を示すパラメトリックなパターンを示した
・好みの評価
・処理の流暢さの主効果が見られ,F(2, 52) = 8.858, p < 0.001; [eta]2 = 0.254:処理流動性の高い絵画への選好評価が最も高く、処理流動性の低い絵画への選好評価が最も低いというパラメトリックなパターンを示した
■瞳孔径
・応答ベースのPDでは,処理流暢性の主効果が見られ,F(2, 52) = 4.795, p = 0.012; [eta]2 = 0.156
・明示的な分類を行った後の瞳孔散大にパラメトリック効果が見られ,処理流暢性が高い条件でPDが最も高く,処理流暢性が中程度の条件で中程度,処理流暢性が低い条件で最も低くなった
■相関分析
・被験者の反応に伴う瞳孔の拡張(PD)は,抽象性評価の平均値(r = -0.551; p < 0.001)および嗜好性評価の平均値(r = 0.333; p = 0.038)と有意に相関
・被験者の回答後の瞳孔散大が大きいほど,嗜好性評価(美的快感の指標)が高く,抽象性評価(処理の流暢性の高さを反映していると思われる)が低い
考察
■処理能力の高い絵画では応答時間が最も短く、処理能力の低い絵画では応答時間が最も長くなることが観察、瞳孔のデータでは逆のパターン
・瞳孔拡張が認知処理のみに関係しているのであれば、最も瞳孔が拡張するのは低処理流暢性条件、つまり反応時間が最も長い条件であると予想
・このような現象は、瞳孔測定の研究でしばしば報告(Nuthmann & van der Meer, 2005; Raisig, Welke, Hagendorf, & van der Meer, 2007)
・しかし,今回の研究ではそのようなことなかった
・これは美術作品の鑑賞において、明示的な分類に伴う情動処理が行われた結果であると解釈
・表現芸術作品や音楽領域などに一般化されるかどうかをさらに調査することは興味深い
コメント
これまでいろいろ瞳孔径の論文を読んできたもやもやが一番解消された論文。これは引用するしかない。
論文
Kuchinke, Lars, Trapp, Sabrina, Jacobs, Arthur & Leder, Helmut. (2009). Pupillary Responses in Art Appreciation: Effects of Aesthetic Emotions. Psychology of Aesthetics, Creativity, & the Arts, 3, 156-163. https://doi.org/10.1037/a0014464