意味的文脈による美的価値の変調:fMRIを用いた研究(Kirk et al., Neuroimage, 2009)
みなさんこんにちは!
微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。
今日も論文を読んでいきます。
意味的文脈による美的価値の変調:fMRIを用いた研究(Kirk et al., Neuroimage, 2009)
結論からいうと、美的評価は、「ギャラリー」で見た刺激が「コンピュータ」で見た刺激よりも有意に高く、この文脈による変調は、内側眼窩前頭皮質と前頭葉皮質の活動と相関していた。
背景
■美的価値が文脈に影響されることは、逸話的にも実験的にも知られている
・作品にタイトルやテキストなどの認知情報を付加して提示すると,観察者の評価に大きな影響を与えることが行動学的に示されている (Cupchik et al., 1994; Leder et al., 2006; Russel, 2003)
■神経美学
・音楽シーケンスを刺激:主観的な心地よさの事後評価が、線条体(背側および腹側)、扁桃体、海馬傍回、島皮質、眼窩前頭皮質(OFC)、前帯状皮質(ACC)の活動と相関
・同様の知見は,絵画を刺激として用いた2つの研究でも報告:画像の美的評価の主効果により、尾状核、OFC、ACCに活動
▶芸術作品の美的価値を主観的に評価することが、報酬の処理、知覚処理、意思決定に関わることが知られている脳構造のネットワークに関与
■文脈と脳
・de Araujoら(2005)は、被験者が液体やにおいの好みを評価する実験条件下で、内側OFCの活動が文脈情報によって調節されることを示した
・McClureら(2004)は、2つの異なるブランドのソフトドリンク(Coca-ColaとPepsi)が生み出す嗜好の生成に関わる神経システムを調査し、ラベルのない飲み物(つまり認知的な影響を受けていない)の評価された嗜好は、前頭前野の腹内側部分(VMPFC)の活性化に反映されるのに対し、ブランド知識は背外側前頭前野、視覚野、中脳、海馬を変調させることを発見
・Plassmannら(2008)は、ワインの金銭的価値を知っていると、被験者の好みの報告が増えることを示し、この効果の神経的相関が内側OFCにあることを報告
方法
■参加者:14名の被験者(女性5名、平均年齢26.3歳、年齢幅23~29歳、左利き4名)
■刺激:刺激として、オリジナルの抽象絵画の色調を視覚的に再現したものを用いた,刺激は,オンライン上の情報源から合計200個を選択
■手続き
・異なるブロックで2つのラベルのうち1つを適用:刺激の半分には,デンマークのルイジアナ近代美術館のものであるというラベルを付け,「ギャラリー」条件に対応させ,残りの半分には「コンピュータ」というラベルを付けました(実験者がコンピュータプログラムであるPhotoshopを使って刺激を生成したことを意味)
・教示「スキャナーの中では、200枚の抽象画が提示されます。絵画には2つのタイプがあります。絵画の50%はルイジアナ近代美術館(デンマーク・コペンハーゲン)から借りてきたものです。残りの50%は、実験者がコンピュータプログラム(Photoshop)を使って作成したものです。」
・スキャン終了後,被験者に再び刺激を提示し,5段階の親近感評価尺度(1:よく知らない - 5:非常によく知っている)で各刺激を評価
結果
■行動
・ギャラリーとコンピュータの条件間で美的評価に統計的に有意な差があることを示した(ANOVA, F(1,26) = 10.49; p < 0.003)
・平均反応時間(RT)は有意差なし
■Brain
・ギャラリー(G)>コンピュータ(C):右内側OFC(12, 48, - 20; z = 4.37; p < 0.05),内側前頭前野(VMPFC)の腹側にある左前頭極(- 10, 60, 2; z = 3.49; p < 0.001)
・ギャラリー(G)<コンピュータ(C):有意な領域見られず
・主効果[G-C]では、実際の美的評価にかかわらず、ギャラリー対コンピュータの条件でより活発な脳領域を反映しているが、その活動は、BA28/34の両側の内嗅皮質にみられた,両側の側頭極/内側側頭極にも活動
コメント
操作が微妙そうだと思ったけど(そう何十枚もコンピューターorギャラリーと言われたら、実験の目的悟られそう)、結果は出ているのですごい。OFCは美を表現するだけじゃなくて、文脈による価値のちがいを調整するらしい。
論文
Kirk, U., Skov, M., Hulme, O., Christensen, M. S., & Zeki, S. (2009). Modulation of aesthetic value by semantic context: An fMRI study. Neuroimage, 44, 1125-1132.