知っていることを好きになるとき:美しさと親しみやすさに関するパラメトリックfMRI解析(Bohrn et al., Brain and Language, 2013)
みなさんこんにちは!
微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。
今日も論文を読んでいきます。
知っていることを好きになるとき:美しさと親しみやすさに関するパラメトリックfMRI解析(Bohrn et al., Brain and Language, 2013)
結論からいうと、タスクで要求されていなくても、読書中に自発的な美的評価が行われていて、腹側線条体と内側前頭前野に見られ、これは美的に優れた文章が持つ報酬性を反映していると考えられる
背景
■神経美学の分野への関心は、ここ数年で著しく高まっている
・近年、視覚芸術の神経美学が進展しているにもかかわらず、驚くべきことに、文学の領域はほとんど手つかずのまま(ただし、 Jacobs, 2011, Kringelbach et al., 2008, Mar, 2011, Schrott and Jacobs, 2011)
・aestheticsの定義:「芸術に対する知覚、制作、反応のほか、強烈な感覚(多くの場合は快感)を呼び起こす物や場面との相互作用を含む」
・本や詩を楽しんだことのある人なら誰でも確認できるように、文学や詩は美的感情を引き出す高い可能性を持っている(Cupchik and Laszlo, 1994, Cupchik et al., 1998, Mar, 2011, Mar et al., 2011, Oatley, 1995; for a review see Jacobs, 2011)
・行動計測を用いた多くの実験的研究が、文学や詩に対する感情的反応を観察している(Cupchik and Laszlo, 1994, Cupchik et al., 1998, Mar, 2011, Mar et al.
▶これらは、古代ギリシャ・ローマ時代に遡る修辞学・詩学(アリストテレス、クインティリアン)や、18世紀に確立された哲学的美学(バウムガルテン、バーク、カント)など、古くからの伝統を持つ特定の学問分野の対象となっている
■主観的快感に関する最近のメタアナリシス(Kühn & Gallinat, 2012)
・40件の論文のうち,言葉を刺激とした実験が1件,メニューを読む実験が1件
・私たちの知る限りでは、文学や詩の美的判断の神経相関を調べた研究は現在のところない
■美学の実験的神経科学は、通常、次の2つの視点のいずれかを取る
・1つは、より対象を重視する観点から、対称性など、美的体験に本質的に影響を与えると考えられる次元に沿って変化する刺激カテゴリーを比較する方法(Jacobsen et al.2006)
▶preference-ratingは参加者間で条件ごとに平均化され、芸術対非芸術の条件などの直接的な対比が計算され、平均的な美的判断に影響を与える刺激の特性とその神経的な基盤に関する情報が得られる
・主観的な評価を収集し、好ましい刺激と好ましくない刺激を知覚する際の神経活動を比較する方法(Calvo-Merinoら、2008年、Di Dioら、2007年)
▶視覚芸術作品の美的体験は、感覚運動領域、感情ネットワーク、報酬関連センターに基づいているようだと結論
■刺激に対する事前の経験が美的判断の個人差の主な予測因子であることが知られている
・人は知っているものを好きになる傾向 (Bornstein, 1989, Zajonc, 1968)
・美的経験に影響を与える多くのプロセスは暗黙的であり、意識的に行う必要はない(Leder et al., 2004)
■文学の美的感覚の候補領域
・両側の後頭葉が挙げられる
・視覚モダリティを超えたいくつかの実験でも発見
・両側の後頭葉は一次および二次視覚野を構成しており、これらの領域の活動と外側PFCの活動の増強は、トップダウンで調整された美的感覚刺激に対する視覚的注意に関連している可能性
・明示的な美的判断をモデル化する場合、活性化が美的体験に関連しているのか、それとも単に判断を下したことによるものなのかを判断するのは困難
方法
■参加者:ドイツ語を母国語とする26名の健常者(平均年齢25歳、範囲20-45歳、女性13名、男性13名、全員右利き)
■刺激
・5つの刺激カテゴリ
・ドイツ語でよく使われる身近なことわざ(例:All roads lead to Rome)。
・耳慣れないドイツ語のことわざ(例:Not every cloud rains)。
・馴染みのあることわざに対応する、ある単語を別の単語に置き換えて異なる意味を持たせたことわざのバリエーション(例:All sins lead to Rome)。
・身近なことわざに対応する「ことわざの置換」では、ある単語を近い同義語に置き換えることで、元の意味を維持しつつ、慣用的な形を崩しています(例:All streets lead to Rome(すべての道はローマに通じる))。
・非修辞的文章:ことわざに特徴的な文体の特徴を持たず,有効な文字通りの解釈が可能な文章
・非修辞的な文以外のすべての文には、音韻や省略などの音韻上の類似性、韻律、並列性、省略など、ことわざに特徴的な修辞的要素が数多く見られ
■手続き
・参加者は,スキャナーの中で1行の文章を読んだ(提示時間2秒)
・意味分類タスクは、参加者を文章に集中させることを主な目的としており、これ以上の分析は行わなかった
・参加者には刺激のカテゴリーが提示され、先行することわざや文がこのカテゴリーに当てはまるかどうかを判断しなければならない
・参加者は刺激提示の間にタスクを実行する必要がない
・多数の刺激に対して明示的な美的判断(美しい/醜いなど)を行うことが求められることがよくある
・ファンクショナルスキャンの後,被験者はMRスキャナーの外で美的感覚を明確に判断(美しさ」の定義については特に指示しなかったので、スタイルの良さや全体的な心地よさだけでなく、社会的・道徳的な価値への賛同も考慮することができた)
・親しみやすさの尺度は、-3(絶対に知らない)から+3(絶対に知っている)の範囲
結果
■Behaviour
・美しさと親しみやすさの評価が中程度の相関関係(τ = .435, p < .001)
■Brain
・文章読解:左前頭葉の大部分と、左(弱くても右)のMTG/STGをカバー、刺激が視覚的に提示されると、両側の後頭葉が強く活性化、両側の中心窩前部の活性化が高まった
・美の効果:スキャン後の美しさの評価をモデル化した予測因子が、BOLD活性化に有意な効果を示す3つのクラスターが特定
・VSTとACC、左小脳
・Familiarity:親しみやすさをコード化したパラメトリック回帰因子は、美しさをコード化した回帰因子よりも全体的に高い効果サイズを示した
・親しみやすさの次元では、美しさの次元に比べて刺激材料の分散が大きいこと(非常に伝統的なことわざから全く知らないことわざまで)
・親しみやすさは、神経美学の実験ではほとんど無視されたり、コントロールされたりする変数
・親近感の評価と正の相関が認められたのは、タスクオフ状態に関連する領域、例えば、前・後正中線構造、デフォルトモードネットワークを形成する側頭・頭頂領域(Brodmann area 39)と両側中前頭回(Fox et al.2005)など
コメント
ことわざと美のBrain研究。視覚芸術ではなく、文学を対象にしているのと、明示的に美的判断をさせない!っていうのが推しポイントらしい。OFCが出ないのがおもしろい。その説明も納得感はある。
論文
Bohrn, I. C., Altmann, U., Lubrich, O., Menninghaus, W., & Jacobs, A. M. (2013). When we like what we know - A parametric fMRI analysis of beauty and familiarity. Brain and Language, 124(1), 1–8. https://doi.org/10.1016/j.bandl.2012.10.003