嗅覚と味覚の美:美的感情と美の特性評価(Diessner et al., Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, 2021)
みなさんこんにちは。
微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。
今日も論文を読んでいきます。
嗅覚と味覚の美:美的感情と美の特性評価(Diessner et al., Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, 2021)
結論から言うと、 参加者はコットンパッドに塗布したJoy®香水を30秒間吸入した後、すぐに美的感情を測定する尺度AESTHEMOS(Schindler et al.2017)を記入しました。その結果、香りのない対照条件と比較して、原型的な美的感情、快感的な美的感情、認識的な美的感情が強く、否定的な美的感情が少ないことがわかった。
背景
■美の体験が視覚や聴覚だけで喚起されるものなのか、五感のいずれかで喚起されるものなのかについては哲学的な論争がある(Schindler et al. 2017)
・美学哲学者(Beardsley, 1966; Sibley, 2001)も、味や匂いを美学の分野全体から排除することを主張
・なぜなら、美的経験の対象は「何らかのパターン化、構造化、秩序化を示す必要があり」、これは「味や匂いでは不可能」だから
■構造 Structure
・構造という概念をアリストテレスの四大原因の教義を用いて説明
a)形式的原因(構造、パターン、関係のシステム)
b)物質的原因(要素、構成要素、基質)
c)効率的原因(対象物を生み出す力、生成的トリガー)
d)最終的原因(目的、機能、テロス)
・例えば、ブロンズ像の形式的な原因は、その形状や構造であり、物質的な原因はブロンズ金属であり、効率的な原因はブロンズ鋳造の技術であり、最終的な原因は、その像を美的に楽しむことである
・Sibley (2001)やBeardsley (1966)が、香りや味を美の領域から排除するために用いた構造の概念は、 アリストテレスの形式的原因(形式構造)の概念に最も近いもの
■さまざまな哲学者が美を説明するために、何らかの形でユニティ・イン・ダイバーシティを唱えている(Dietzner et al.2018)
・構造やアリストテレスの言葉を借りれば、統一性は構造、形式的な原因、特徴的な要素であり、多様性は物質的な原因、構成的な要素、部分
・例えば、音楽の場合、旋律が統一性(構造)、音符が多様性(構成要素)
▶つまり、Beardsley(1966)やSibley(2001)が「香りや味には構造がないから美しいとは言えない」と述べたのは、「香りや味は単一の体験であり、構造的に統一できるような多様性はない」というUiDがないことを主張している
・キャラメル飴はキャラメルの味がするだけだし、バラはバラの香りがするだけで、音楽や絵画、詩や建築、あるいは川や木や山や雲などの多様な要素が一つのゲシュタルトになっている自然の美しさのような構造的な体験はない
■関連した議論として、香りが絵画や音楽と同等の芸術、ファインアートとしての地位を確立することが挙げられる
・シャイナー(2015)「香水やその他の嗅覚的な作品の中には、多くの絵画、作曲、小説、インスタレーション作品と同様に、形式的に複雑で、表現力があり、意味を持つものがある」
・Dutton(2009)「香りを芸術の一つとして想像することはできても、香りは音楽や絵画のような高尚なファインアートにはなり得ない」
■神経美学のメタ分析レビュー(Brown, Gao, Tisdelle, Eickhoff, & Liotti, 2011)
・視覚的な美学に関する56件の研究、聴覚的な美学に関する8件の研究、味覚的な美学に関する16件の研究、嗅覚的な美学に関する13件の研究を対象
・Brownら(2011)は、「美」と「快」を同一視しているが、我々は同義語とは考えていない
・快感の4つのモダリティすべてが眼窩前頭皮質(OFC)で処理されていたが、OFCの異なる部分で処理されていたことから、OFCに領域(モダリティ)特異性があることがわかった
■先行研究
・Brielmann & Pelli, 2017:キャンディーを与えて吸わせ、その後、"During this trial, did you get the feeling of beauty from the object? "と尋ねた
▶参加者は、「絶対にない(0)」「おそらくない(1)」「おそらくある(2)」「絶対にある(3)」という回答の選択肢
▶37%(67人中23人)の参加者が、キャンディの美しさを「絶対にそうだ」(3)と評価したと報告
・嗅覚の方はまだない
■美の経験は、主に美的感情の経験であり、知られているというよりは感じられているものである(Schindler et al.2017)
・美の鑑賞の形質(AoB):自然の美、芸術的な美、道徳的な美、美しいアイデアなどを含む幅広い美の刺激への反応性を示す、永続的で文脈を超えた人格の側面(すなわち、形質)と定義されるかもしれない
・HaidtとKeltner(2004)は、AoBに関する代表的な研究で、AoBは感謝と精神的超越の2つの特性と正の相関があり、物質主義とは負の相関があることを示唆し、実際にそうなった(Dietzner, Parsons, Solom, Frost, & Davidson, 2008)
■味覚や嗅覚に対する情動反応の調査は存在するが(Chrea et al., 2009; Ferdenzi et al., 2013; King & Meiselman, 2010; Spinelli, Masi, Dinnella, Zoboli, & Monteleone, 2014を参照)、嗅覚や味覚の経験に対応した、あらゆる美的情動(Schindler et al., 2017)を明示的に調査したものはない
研究1
■参加者:学部生(N102、女性67.7%、男性33.3%)
■尺度
・Engagement with Beauty Scale Revised(EBS-R; Pohling et al., 2019)は、自然な美しさ(EnB)、芸術的な美しさ(EaB)、道徳的な美しさ(EmB)、美しい考え(EiB)に関する様々なレベルの認知的・感情的な関与を示す18項目の自己報告スケール
・Aesthetic Emotion Scale(AESTHEMOS;Schindler et al.2017):「原型的美的感情」、「快感」、「認識的感情」、「否定的感情」
■手続き
・EBS-Rを完了
・4週間後に100%純粋な無香料のコットンスクエア(Signature Careブランド)を渡され、5.8cm 5.2cm(2.5インチ 2インチ)の大きさで、「30秒間、注意深く嗅いでください」と指示され、その後、AESTHEMOSを記入
・2週間後には、同じブランドと種類のコットンスクエアパッドを渡し、今度はJean Patou Joyの香水で香りをつけたものを渡し、再び「30秒間注意深く嗅いでください」と指示した後、再度AESTHEMOSを記入
■刺激
・Joy's Eau de Parfum(2.5オンスで190ドルの小売価格)を使用
■結果
・一元配置反復測定MANOVA:調査した5つの美的感情クラスに対してJoyの香水が有意な効果を持つことがわかった(, V .56, F(5, 97) 25.03, p < 001, η2 .56)
・無香料パッドの条件よりもジョイの条件の方が、原型的な美的感情、快感的な美的感情、エピステミックな美的感情のレベルが高く、また、ノスタルジックな感情のレベルが高く、ネガティブな感情のレベルが低かった
・AESTHEMOSの1項目である「美しいと感じた」に注目すると、36%の被験者がリッカート尺度で3以上をマークし、Joyの香水の香りを美しいと感じた可能性があることを示した
・無香料コットンパッドの評価はM 1.17(SD 0.53)、ジョイパッドの評価はM 2.28(SD 1.21)となり、t(101)9.93、p 0.001、d 1.19
・EBS-Rの総得点は、無香料のコットンパッドを美しいと感じることと、r.24, p.01およびJoyパッドを美しいと感じることと、r.25, p.01の有意な相関
・EBS-Rの芸術的美の下位尺度も、無香料のパッドを美しいと感じることと、r.24, p.01およびJoyパッドを美しいと感じることと、r.25, p.01の有意な相関
研究2
■参加者:学部生102名(女性65名(63.7%)
■研究1と同じ尺度
■手続き
・「数分後に角砂糖を渡して味見してもらいます。数分後に試食用の角砂糖をお渡ししますので、私たちが口に入れてくださいと合図するまで、机の上や手の中に置いておいてください。そして、30秒間、注意深く味わってください。30秒経ったらアナウンスしますので、先ほどお配りした感情尺度にご記入ください」
・その2週間後、参加者にヴェルタースのハードキャラメルキャンディを口にくわえてもらい、再び同じ指示で「30秒間、注意深く味わってください」と言った後、すぐに別のAESTHEMOSを記入してもらった
・それぞれ3gの糖分が含まれている
■結果
・角砂糖よりもキャラメルキャンディの方が美的刺激が大きいと感じた
・角砂糖の条件よりもキャラメルの条件の方が、原型的で喜ばしい美的感情のレベルが高く、ノスタルジアのレベルが高く、また、ネガティブな感情が少なかった
・エピステミックな美的感情については、2つの条件で差がなかった
・「美しいと感じた」に注目すると、5段階評価で3以上をマークした人が45%と、キャラメルの味に美しさを感じた可能性がある一方で、角砂糖の場合は3以上をマークした人が19%と、こちらも美しい味と感じたことがわかった
・角砂糖の評価はM1.72(SD1.04)、キャラメルの評価はM2.52(SD1.27)、t(102)5.94、p.001、d0.69
・EBS-Rの総得点は、AESTHEMOSの美的感情の4つのサブクラスの各尺度との間に否定的な美的感情のr.05から典型的な美的感情のr.19までのわずかな相関があるだけだった
・懐かしさの下位尺度は、角砂糖ではM 1.71(SD 0.99)、キャラメルではM 2.11(SD 1.21)で、t(102)4.27、p 0.001、d 0.37
・角砂糖の「美しさ」サブスケールと「懐かしさ」サブスケールの相関は r .28 (p .004)、キャラメルのそれは r .40 (p .001)
研究3
■参加者:41名の学部生
■手続き
・参加者の一部は、大学が所有するギャラリー/博物館で行われた別の研究にも参加していた
・参加者は、中国寺院の祭壇を3分間注意深く観察するよう指示された
■結果
・Joyの香水を美しいと感じたことと、中国の祭壇を美しいと評価したことの相関は、有意ではないがr .18
・EBS-Rの総合得点(r .02)と芸術的な美しさの下位尺度は、中国の祭壇を美しいと感じること(r .09)を予測しなかったが、祭壇に関しては93%の参加者がAESTHEMOSの美しさの項目を3以上と評価
・ヴェルタースのキャラメル味を美しいと感じたことと、中国の祭壇を美しいと感じたことの相関は、有意ではないr.12
コメント
嗅覚、味覚の美について迫った研究。バレットも引用していたあたり、興味深い。
論文
Diessner, R., Genthôs, R., Arthur, K., Adkins, B., & Pohling, R. (2021). Olfactory and gustatory beauty: Aesthetic emotions and trait appreciation of beauty. Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, 15(1), 38–50. https://doi.org/10.1037/aca0000262