畏敬の念のポジティブな側面とネガティブな側面を感じる素質の個人差と文化差(Nakayama et al., Journal of Cross-Cultural Psychology, 2020)
みなさんこんにちは!
微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。
今日も論文を読んでいきます。
畏敬の念のポジティブな側面とネガティブな側面を感じる素質の個人差と文化差(Nakayama et al., Journal of Cross-Cultural Psychology, 2020)
結論から言うと、日本と米国の両方のサンプルにおいて、畏敬の念のポジティブな側面とネガティブな側面を感じる素因は分離可能であると同時に、文化的な違いも見られた。
背景
■aweの複雑さと両義性
・一般的な感情とは異なり、固定した価値観を持たない
・aweの両価性は、調整の必要性から、aweを誘発する膨大な特徴によって意味形成プロセス(Valdesolo & Graham, 2014)を認知的に試みる際に生じると理論づけている
・審美的な美しさは、aweにつながる「崇高さ」(Halstead & Halstead, 2004; Kant, 1790/ 1987)への恐怖の感情(例:力、未知/不可解なものへの感情)によって煽られることがある
■文化を超えたaweの肯定的・否定的側面
・ほとんどの実証研究はaweのポジティブな側面に焦点
・DPES-Aweは、美しさや個人的な能力や美徳を追求することで「味付けされた」aweを経験する素質に焦点を当てている
・一方、(超自然的なものや他人の能力による)脅威や服従といった負の側面で味付けされたaweを感じる素質には触れていない
・Nakayama & Uchida (in press) は、日本語コーパスを分析し、aweに関連する単語の意味は、恐怖や尊敬に関連する単語の意味とは解離しており、aweの意味は、恐怖と尊敬の意味の中間に位置していることを示し、日本語におけるaweの混合した価値観を示唆
・思春期後期のTrait Respect-Related Emotions Scale(TRRES)(Muto, 2016)
▶その中には、否定的なaweのサブスケールも含まれていた(例."TRRESのaweサブスケールは、aweの2つの中核的要素である「広大さ」と「調整の必要性」に着目
・負の性格的awe尺度は、開放性および外向性と負の相関があり、これは以前にDPES-aweで見られた傾向とは逆
■感情の文化差
・欧米人は、ポジティブな感情を感じたり、理想化したりする傾向が強く、主観的幸福度が高い(Diener & Diener, 1995; Oishi, 2002)
・Razaviら(2016)は最近、DPES-aweのスコアは4カ国で異なり、米国のサンプルは極端にポジティブな方であると報告
・東アジア人は、欧米人よりも混合した感情を感じたり、理想化したりする傾向(例えば、Grossmann & Ellsworth, 2017)
・古代中国文化の影響を受けて、現代の東アジア人は、ポジティブなものとネガティブなものが混在していると考え、一見ポジティブなもののネガティブな側面を見たり、逆にネガティブなものを見たりする傾向
▶このような弁証法的思考(Peng & Nisbett, 1999)は、東アジア人の思考パターンのより典型的なものであり、混合した感情の発生を媒介することがわかっています(Miyamoto & Ma, 2011; Schimmack et al., 2002)
・東洋人は感情の両価性をより受け入れやすいことから、aweの感情にも一般化すると予測
研究1
■参加者:495名
■手続き
・DPES-awe
・TRRES
・職場のヒエラルキーが社会人の日常的な感情に顕著な影響を与えていると想定し、職場におけるパワー感を測定するために、Personal Sense of Power Scale(Anderson et al.2012)を用いた
・主観的幸福感
・awe体験の想起:参加者は、自然に対するaweの念(awe-自然条件)、社会的対象に対するaweの念(awe-社会条件)、他者から信頼されたこと(対照条件)のいずれかの体験を記述する3つの条件に無作為に割り当て
■結果
・DPES-aweとTRRESは正の相関を示した(r = .451, p < .001)
・DPES-Aweは、職場での力強さ(r = 0.12, p < 0.05)および幸福感(r = 0.14, p < 0.05)と正の相関
・DPES-aweスコアがaweの念を有意に予測した(B = 0.52, t = 3.65, p < 0.05)。条件の主効果および交互作用効果は有意ではなかった(それぞれ、B = -0.16, t = -1.14, p = 0.26, および B = -0.15, t = -1.07, p = 0.29)
・TRRESスコアはawe評価を有意に予測したが(B = 0.32, t = 2.24, p < 0.05),条件の主効果と交互作用は有意ではなかった(それぞれ,B = -0.15, t = -1.03, p = 0.30, および B = 0.04, t = 0.26, p = 0.80)
研究2
■参加者:日本人400名、アメリカ人408名
■手続き
・DPES、TRRES
・Ten-Item Personality Inventory
・BIS/BAS尺度(Carver & White, 1994)
■結果
・。本人サンプルでは,DPES-AweとTRRESが正の相関を示し(r = .628, p < .001),研究1と同様の結果となった
・一方,米国のサンプルでは,その相関は有意ではなく(r = .060, p = .388),日本のサンプルの相関とは有意に異なっていた(Z = 9.29, p < .001)
・DPES-Aweは,両サンプルともに,外向性,経験開放性,良心性と正の相関を示した。米国ではDPES-Aweは同意性と正の相関があり、神経症とは負の相関があったが、日本ではこれらの部分相関は有意ではなかった
・TRRESは、米国、日本ともに、外向性、開放性、良心性と負の相関を示し、神経症と正の相関を示した。米国では同意性と負の相関を示したが、日本では示さなかった
・BASの3つの下位尺度は、両サンプルにおいてDPES-aweと正の相関を示したが、TRRESとは無関係
・日本人にとってaweは混合した感情であり、米国人にとってはそうではないことを示唆
コメント
こころの未来の中山先生たちの論文。読まないととずっと思っていたがやっとで読めた。日本人と北米人のAwe(混合感情)の感じ方をとても分かりやすく言語化してくれている。東洋人の弁証法的思考法というのもこれから考えてみたい。曖昧性耐性とかより芸術とかかわりやすそう。
論文
Nakayama, M., Nozaki, Y., Taylor, P. M., Keltner, D., & Uchida, Y. (2020). Individual and Cultural Differences in Predispositions to Feel Positive and Negative Aspects of Awe. Journal of Cross-Cultural Psychology, 51(10), 771–793. https://doi.org/10.1177/00220221209598
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論文
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Nakayama, M., Nozaki, Y., Taylor, P. M., Keltner, D., & Uchida, Y. (2020). Individual and Cultural Differences in Predispositions to Feel Positive and Negative Aspects of Awe. Journal of Cross-Cultural Psychology, 51(10), 771–793. https://doi.org/10.1177/0022022120959821