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"見た目は好きだけど、美しくない":美しさを超えた感覚的な魅力 (Muth et al., Poetics, 2020)

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みなさんこんにちは。

微かに混じり合う教育と心理学とアートをテーマに発信しています。

今日も論文を読んでいきます。

 

 

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"見た目は好きだけど、美しくない":美しさを超えた感覚的な魅力 (Muth et al., Poetics, 2020) 

背景

■芸術作品は、非芸術作品に比べて、感覚的な快楽の資源の多様性を可能にしていると主張する

■「XはAだが、私はXが好きではない」という形式の文を分析することで、評価的要素は一般的に美的文の意味的内容の一部であるか?という問いを検討可能

・矛盾が生じないのであれば、美的表現の評価的要素は、その内容の一部でもなければ、従来の暗黙的なものでもない(すなわち、単なる慣習のために文によって表現されていない、Grice, 1989)と仮定することができる

■美」が対象物を指しているのに対し、「好き」は個人の精神状態を指していることを考えてみる

・美しさはまた、「自由な美」(Kant, 1790/1951; Kant, 1790)を参照して、自己拡張に焦点を当てた意味深さと不確実性を融合させた感情として理解することができる

■芸術作品が日常的なものとは大きく異なる美的反応を喚起するかどうかは議論の余地がある(Graham, 2000の議論など参照)

・アートと非アートに対する美的反応は、ポジティブな反応とネガティブな反応を組み合わせた「混合した」感情、感動したときのような感情(Menninghaus et al., 2015)や、崇高な風景(Konečni, 2005; but Ortlieb, Fischer, & Carbon, 2016)のような衝撃と喜びを経験することで、相反する感情的な内容を伴うことがある

・素材の芸術的な操作やその再文脈化は、日常生活の中で私たちの行動を導く知覚的オートマティスムと戯れることが多く、意味的不安定性(Muth & Carbon, 2016)、多重性の経験、あるいは視覚的な不確定性(現代西洋美術に限らず、Gamboni, 2002; Krieger & Mader, 2010)を誘発

・アート作品が評価されるのは、描写されているものだけではなく、私たち自身の感情や感覚的な経験そのものへの意識を高める(例えば、自動化された知覚そのものを「見える」ようにする、Fiedler, 1971)ことでもあり、私たちの世界への理解と経験への潜在的な移行をもたらす可能性を秘めている(Graham, 2000)

■芸術の場合には、否定的な快楽反応があっても、それが喚起する反射的なプロセスや芸術的な価値によって価値を持つことができるので、矛盾した文章にはならないのではないかと推測

■緊張と解決、不穏さと関心、意味的な不安定さと洞察、あるいは不確実性と意味深さの間の快楽的な相互作用を想像することができる。これにより、ネガティブな感情は、感情の強さ、関与、注意力、記憶力などを高めることができるので、価値があるかもしれない(Menninghaus et al., 2017)

・芸術経験のある人が挑戦と複雑さをより高く評価し、むしろ芸術作品の構造的側面に反応するのに対し、芸術経験のない人は評価を心地よさや暖かさといった肯定的な感情的反応に関連付けることが多い(Winston & Cupchik, 1992)

 

仮説

■(a1)と(a2)の文は、読者には矛盾しているように見えたり、直観的ではないように見えたりすると考えるのが妥当:
(a1) 見た目(音)は好きだが、X は美しくない。
(a2) X は美しいが、私はその見た目(音)が好きではない。

1.(a2)は、(b)のダイナミックや(c)のエレガントよりも、読者にとって矛盾しているように見える
2.「X」がアートに関連した概念である場合、すべての文章は矛盾していないように見える。
3.「X」がアートに関連した概念であり、読者がアートの経験が豊富でアートに興味を持っている場合は、すべての文章が矛盾しているように見えない

 

方法

参加者:40名+グラフィックデザインの学部生14名

刺激:14の例文((a1) X の見た目(音)は好きだが、X は美しくない。)からなる56文をランダムな順序で提示

・Xをアート関連の7つの概念(インスタレーション、アート作品、歌、彫刻、コラージュ、絵画、ドローイング)と、アート以外のアーティファクトの7つの概念(ランプ、ジャケット、テーブル、クローゼット、自転車、花瓶、日用品)に置き換えた

手続き:「矛盾しているように見えるレベル」を7点満点で評価。アート経験と興味に関するアンケートへの回答。

 

結果

■フォーマット(a1 vs. a2 vs. b vs. c)とカテゴリ(芸術 vs. 非芸術)を参加者内因子、芸術経験と関心(低 vs. 高)を参加者間因子とした混合計画ANOVA

・フォーマットの大きな主効果(F(3, 114)=41.37、p<.001、ηp2 = 0.521)

・カテゴリーの小さな主効果(F(1, 38)=5.37、p=0.03、ηp2 = 0.124)

・フォーマットとカテゴリー間の小さな交互作用効果(F(3, 114)=3.94; p=0.01、ηp2 = 0.094)

■非美的であるにもかかわらず、感覚的魅力を示唆する文(a1)の方が、感覚的魅力のない美しい対象物を示唆する文(a2)よりも低い評価

→人々は、ある物体が美しくなくても感覚的に魅力的なものであることを受け入れていることを示している

■美術品に関連する概念に言及した文は、非美術品に言及した文に比べて、一般的にわずかに矛盾が少ない

 

コメント

「美しさ」と「好み」を使ってそれらが共存しないときの矛盾について扱った研究。この辺りの議論は慣れていないと少し、ややこしく感じる部分も多くて、Muth先生らの論文を引き続き読み進めたいと思った(この辺りの美、好み、興味のすみ分けをうまく実験に落とし込んでいるものが多い)。

 

論文

Muth, C., Briesen, J., Carbon, C. C. (2020). “I like how it looks but it is not beautiful”: Sensory appeal beyond beauty, Poetics, 79, 101376. https://doi.org/10.1016/j.poetic.2019.101376.