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文化と混合感情:日本とアメリカにおけるポジティブな感情とネガティブな感情の同時発生(Miyamoto et al., Emotion, 2010)

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みなさんこんにちは!

微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。

今日も論文を読んでいきます。

 

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文化とミックスエモーション:日本とアメリカにおけるポジティブな感情とネガティブな感情の同時発生(Miyamoto et al., Emotion, 2010)

結論から言うと、日本人はアメリカ人よりも楽しい場面でより多くの混合感情を報告したのに対し、不快な場面や混合場面では混合感情に文化的差異は見られなかった

 

背景

■人は楽しい感情と不快な感情を同時に感じることができるのか、研究者たちは長い間議論してきた

・ある研究者は、ポジティブな感情とネガティブな感情は双極性連続体の両端にあると考え、人は両方を同時に感じることはできないとしている

・ポジティブな価値観とネガティブな価値観を独立した次元と捉え、人はポジティブな感情とネガティブな感情を同時に感じることができると考える人もいる

■弁証法的情動の文化的差異

・矛盾は避けるべきものとされている (Peng & Nisbett, 1999)

・アメリカ人は両極端な態度をとる傾向があるが、東アジア人は中間的な方法を求める傾向がある(Peng & Nisbett, 1999)

・西洋文化はポジティブな感情を大切にし、ネガティブな感情を抑止する文化的規範を持っている(Eid & Diener, 2001)

▶ポジティブなものに注目する傾向や、態度を二極化する傾向があるため、アメリカ人は主にポジティブな感情を最大化し、ネガティブな感情を最小化することで、弁証法的な感情を経験することを避けているのかもしれない

・アメリカ人は、パートナーの死などの非常にストレスの多い出来事があっても、ポジティブな再評価を行い、かなりの量のポジティブな感情を経験していると報告 (Folkman, 1997)

・これらのデータは、日本人はアメリカ人に比べて、幸せな状況をより広く、より否定的に捉えている可能性があるため、主に肯定的な状況において、より大きな文化的差異があることを示唆

・Yik (2007) も、特定の瞬間に経験した感情を調べたところ、英語、中国語、スペイン語、日本語、韓国語の各文化間で、ポジティブな感情とネガティブな感情に強い負の相関

▶ヨーロッパ系アメリカ人もアジア人も、特定の状況下でポジティブな感情とネガティブな感情を同時に経験することはないということを示唆

■情動の弁証法は,その複雑さなどの状況の性質に依存

・楽しい状況では、不確実な状況や不快な状況よりも文化的な違いが顕著(Leu et al., in press)

・アメリカ人とアジア人は、不愉快な状況や不確実な状況に対して、正負の感情の間に強い負の関連性を示す傾向が同じであったのに対し、アメリカ人はアジア人よりも愉快な出来事に対して、有意に強い負の関連性を示した

 

パイロット調査

■パイロット研究では、まず、アメリカ人と日本人に、ポジティブな感情とネガティブな感情の両方を感じたことのある状況を記述してもらい、混合感情の種類が文化によって異なるかどうかを調べた

▶Leu et al. (in press) と同様に、日本人はアメリカ人に比べて、楽しい状況ではポジティブな感情とネガティブな感情の両方を感じる傾向があるが、不快な状況ではアメリカ人も日本人も同じように複雑な感情を感じる傾向があると予測

■参加者:ミシガン大学の非アジア系アメリカ人学部生33名(男性16名、女性17名)と、京都大学の日本人学部生32名(男性18名、女性14名)

■結果

・最も多く挙げられた状況は、文化的に共通:新生活や新しい活動への移行、自己と他者の比較、恋愛関係

・アメリカ人回答者の24%が、親しい人を失った状況(例:祖父の死)を少なくとも1つ挙げているが、日本人回答者は誰も挙げていない

▶本研究では、パイロット調査をもとに、「自己成功」「自己失敗」「転機」「親しい人の喪失」の4種類の混合感情状況を設定

 

研究1

■参加者:ミシガン大学の欧州系アメリカ人学部生28名(男性17名、女性11名)と、京都大学の日本人学部生22名(男性13名、女性9名)

■手続き

・大学生が書いた実際の生活で起こった経験に関する記述を読み,それぞれの状況に置かれた場合にどのように感じるかを報告

・それぞれの場面で、ポジティブな感情とネガティブな感情をどの程度感じるかを、0(全く感じない)と4(非常に強く感じる)の5段階で評価

・次に、特定のポジティブな感情(幸福感、誇り、共感、安堵、希望、親しみ)と特定のネガティブな感情(悲しみ、不安、怒り、自責、恐怖、自分への怒り、恥、罪悪感、嫉妬、不満、恥ずかしさ、恨み、誰かに迷惑をかける恐れ)をどの程度感じるかを、0(全く感じない)と5(非常に強く感じる)の6段階で評価

・他人の感情に対してどのくらい責任を感じるか、自分の感情に対して他人がどのくらい責任を負っているか、周囲の人や出来事、物に影響を与えたり、自分の思い通りに変えたりすることをどの程度考えるか、という3つの問いに対して、5段階で評価

■結果

・状況の種類ごとに、感情の強さにかかわらず、参加者がポジティブな感情とネガティブな感情の両方を0(まったくない)よりも大きく評価した状況の数を計算

・2(文化)×2(状況の種類:自己成功 vs. 自己失敗)のANOVA:文化と状況の間の交互作用はわずかに有意で,F(1, 47) = 3.69, p = 0.06。日本の回答者は、アメリカの回答者(M = 3.15)に比べて、混合した感情を報告する頻度がわずかに高い(M = 3.64)、t(47) = 1.82、p < 0.10。自己失敗の場面では,日本人とアメリカ人の回答者は,同じように複雑な感情を報告。

・日本の参加者は、アメリカの参加者に比べて、自己成功の場面で幸福感と他人に迷惑をかけることへの恐怖感の両方を報告する頻度が高かった(それぞれMs = 3.32、2.14)

・(自己成功の場面)日本の参加者は、アメリカの参加者(M = 1.99)に比べて、他人の感情に責任を感じると答えた(M = 2.77)、F(1, 46) = 7.16, p < 0.01

▶日本人は幸福感に加えて、他人に迷惑をかけることへの恐怖を感じているのかもしれない

▶媒介分析では、責任感が幸福感と他者への迷惑感の共起における文化的差異をわずかに媒介することが示された

 

研究2

■参加者:ウィスコンシン大学マディソン校の欧州系アメリカ人学部生28名(男性12名、女性16名)と京都大学の学部生27名(男性12名、女性15名)

■手続き

・楽しい状況としての自己成功(「個人として何か重要なことに成功したとき」)、不快な状況としての自己失敗(「個人として何か重要なことに失敗したとき」)、そして混合した状況としての移行(「大学で授業を受け始めた日」)に焦点

・それぞれの状況において、参加者はまず、自分が何を感じ、何を考えていたのか、何を言ったのか、言ったとすればどのように言ったのか、何をしたのか、どのように行動したのかに言及して、その出来事の性質を詳細に記述するよう求められ、自分が感じたすべての感情を記述するよう求められた

・れぞれの状況でポジティブな感情とネガティブな感情をどの程度感じたかを、0(全く感じない)と4(非常に強く感じる)のラベルを付けた5段階の尺度

■結果

・自己実現の場面では,アメリカ人回答者がポジティブな感情とネガティブな感情の両方を述べたのは14%に過ぎなかったのに対し,日本人回答者は37%が両方を述べた

・自己失敗の場面では、アメリカ人と日本人の回答者の約半数(それぞれ54%と59%)が、ポジティブな感情・出来事とネガティブな感情・出来事の両方を言及

・転換期の状況では、アメリカ人回答者の86%、日本人回答者の74%が、ポジティブな感情とネガティブな感情の両方を報告

・複雑な感情について書けと言われなくても、80%の回答者が、大学入学初日に経験したポジティブな感情とネガティブな感情の両方を自発的に書いて

 

コメント

日本人はポジティブな状況であっても他人を気にして、ネガティブな感情も抱くというとても直観に沿った結果。社会的な考察が多いので、芸術場面に転用できる知見かどうかは微妙。

 

論文

Miyamoto, Y., Uchida, Y., & Ellsworth, P. C. (2010). Culture and mixed emotions: Co-occurrence of positive and negative emotions in Japan and the United States. Emotion, 10(3), 404–415. https://doi.org/10.1037/a0018430