文化と物理的環境:全体的なものと分析的なものとの間の知覚的アフォーダンス (Miyamoto et al., Psychological Science, 2006)
みなさんこんにちは!
微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。
今日も論文を読んでいきます。
文化と物理的環境:全体的なものと分析的なものとの間の知覚的アフォーダンス (Miyamoto et al., Psychological Science, 2006)
結論から言うと、研究1では、日本の風景はアメリカの風景に比べて、より曖昧で、より多くの要素を含んでいることが、主観的・客観的な尺度を用いて示され、研究2では、日本人もアメリカ人も,日本の風景を見たときの方が,アメリカの風景を見たときよりも,文脈情報に注意を向けることがわかった。
背景
■西洋文化圏の人々は、文脈に依存しない認知プロセスを行い、環境を分析的に認識・思考する傾向があるのに対し、東アジア文化圏の人々は、文脈に依存する認知プロセスを行い、環境を全体的に認識・思考する傾向
・アメリカ人は、主に焦点となる魚の特徴(大きい、手前にある、速く動く、色が鮮やか)を参照していたのに対し、日本人は、背景や、焦点となる物体と背景の関係(背景の物体と物体の位置関係)を参照
・日本人がアメリカ人よりもフレーム(文脈)に注意を払っていたことを示唆
■文化の違いを生み出すメカニズム
・アジア人は比較的、相互依存性や社会的世界への関心が高いため、文脈への注意が促されるかもしれない (Nisbett, 2003)
■注意パターンの文化的差異が、物理的環境の文化的差異によって直接もたらされている可能性
・日本の環境では、アメリカの環境に比べて物体がより曖昧で背景との区別がつきにくい場合、日本の環境で生活すると、特定の物体よりもフィールド全体に注意が向く可能性
・人は環境で起こる変化、特に周辺や文脈の変化が見えなくなる
・アメリカ人は日本人よりも焦点となる物体の変化を多く検出し、日本人はアメリカ人よりもフィールドや物体間の関係の変化を多く検出
▶このような文化的な違いは、風景の種類によって異なった
・日本人もアメリカ人も、日本の風景を見ているときは、アメリカの風景を見ているときよりも背景の変化をより多く検出し、アメリカの風景を見ているときは、日本の風景を見ているときよりもフォーカルオブジェクトの属性の変化をより多く検出
研究1A
■参加者:アメリカ人大学生35名(女性20名、男性15名)と東アジア人留学生33名(女性20名、男性13名)
■主観的尺度:「各物体の境界がどの程度曖昧か」「異なる物体がいくつあるように見えるか?」「どのくらい見えない部分があるようですか?」「景色はどのくらいカオス or 整理されていますか?」
■手続き
・写真を6つのグループにわける(各グループに日本の風景41枚、アメリカの風景41枚)
・各参加者はその6つのグループのいずれかに無作為に割り当てられ、それぞれの絵を4つの尺度で評価
■結果
・コンポジットスコアを従属変数として,2(参加者の民族:東アジア人vs.アメリカ人)×2(写真の文化:日本vs.アメリカ)×3(都市の規模:小規模vs.中規模vs.大規模)の分散分析(ANOVA):文化の効果は予測通りで,F(1, 132) = 63.18, p < 0.001, η2p= 0.49であった.日本のシーンは、アメリカのシーン(M=2.48)に比べて、より複雑で曖昧であると判断された(M=2.85)
・ニューヨークがアナーバーやチェルシーよりも複雑で曖昧であると評価されたのに対し(Ms = 2.71, 2.40, 2.34)、日本の3都市の風景は同じように複雑で曖昧であると評価された(東京、彦根、虎姫のMs = 2.90, 2.82, 2.82)
・民族性の主効果は、F(1, 66) = 11.55, p < 0.01となりました。東アジアの参加者は、複雑な環境に慣れているためか、アメリカの参加者(M=2.80)に比べて、写真の複雑さや曖昧さが少ない(M=2.52)と評価した
研究1B
■日米の知覚環境から無作為に抽出した976枚のシーンを、より客観的な方法で分析
■各画像に含まれる有界粒子の数を測定:「analyze particles」コマンドを使用して、画像をスキャンしてオブジェクトの境界を示すことで,画像内のオブジェクトの数をカウント
■結果:2(文化:日本vs.アメリカ)×3(場所:小学校vs.郵便局vs.ホテル)×3(都市の規模:小vs.中vs.大)のANOVA
・研究1Aの結果と同様に、文化の主効果は両測定項目で有意
・大都市は、中都市や小都市に比べて、オブジェクトの数が多い
研究2
■アメリカと日本のどちらかの場面を被験者に提示して評価させた後,異なる画像を用いて変化盲検課題を行わせた
■参加者:アメリカ人学部生30名(女性20名,男性10名)と,京都大学の日本人学部生32名(女性9名,男性23名)
■手続き
・参加者は、日本の風景95枚とアメリカの風景95枚を無作為に割り当てられ、自分がその風景の中に置かれていることを想像し、その風景がどれだけ好きかを5段階評価
・表向きは無関係な「変化盲」の課題:2つのバージョンのアニメーションの間の変化を検出して書き留めるように指示され、各ペアを見るために4回の試行が与えられた
■結果
・2(参加者の文化:アメリカ人 vs 日本人)×2(主な場面の文化:アメリカ vs 日本)×2(変化のタイプ:焦点的 vs 文脈的)×2(刺激のタイプ:建設現場 vs 空港)のANOVA:
・参加者の文化と変化のタイプの間の相互作用は、F(1, 58) = 4.24, p < 0.05, η2p= 0.07と、有意
・主要場面の文化と変化の種類との間の相互作用は,F(1, 58) = 5.14, p < 0.05, η2p= 0.08と有意
・アメリカ人と日本人の参加者は,アメリカ人のシーンでプライミングされた後よりも,日本人のシーンでプライミングされた後の方が,より多くの文脈変化を検出
考察
サイコサイらしいおもしろい研究。目の付け所が斬新だし、結果も論理も無駄がなく非常にクリア。考察(限界)で言及されていた「今回の研究では、日本人(あるいはアジア人全般)が比較的複雑な環境を好み、アメリカ人(あるいは欧米人全般)が比較的単純な環境を好む理由については何も示されていない」が気になるなあ。
論文
Miyamoto, Y., Nisbett, R. E., & Masuda, T. (2006). Culture and the Physical Environment: Holistic Versus Analytic Perceptual Affordances. Psychological Science, 17(2), 113–119. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2006.01673.x