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感情の動き:音楽刺激に対する感情判断の時間経過を調べる(Bachorik et al., Music Perception, 2009)

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みなさんこんにちは!

微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。

今日も論文を読んでいきます。

  

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さっそくいきます!

 

感情の動き:音楽刺激に対する感情判断の時間経過を調べる(Bachorik et al., Music Perception, 2009)

結論からいうと、感情判断を開始するまでに、平均して8.31秒(SEM = 0.10)の音楽を必要とし、統合時間は曲の親しみやすさに依存することがわかった

 

背景

■音楽は、その性質上、時間をかけて行われるもの

・音楽における情動知覚というテーマは,理論的にも実証的にも多くの関心を集めてきた(Juslin & Sloboda, 2001)

・知覚された感情と感じられた感情の違い(Gabrielsson, 2002; Scherer, 2004)が明確ではなかった

・音楽による情動の神経基盤を調べる神経画像研究が増えており、一次感覚領域だけでなく、構文処理、順序付け、報酬と動機の知覚に関わる脳領域が関与している

■音楽的感情の時間的解決

・PerrotとGjerdingen(1999)は,カテゴリー化とグループ化の手法を用いた研究で,音楽の抜粋をわずか250ms程度聞いただけで,その音楽がどのジャンルに属するかを分類できることを報告

▶音楽の特徴が250msという短い時間で認知システムに認識される可能性を示唆

・音楽の抜粋がわずか100msの長さであっても,参加者は曲名やアーティストを刺激に一致させることができ,偶然よりもはるかに高いパフォーマンスを示した

・参加者にいくつかの音楽の抜粋(コンピュータ画面上にアイコンとして表示される)を与え,それらが引き起こす感情反応の類似性に基づいてグループに分けるよう求めた実験:1秒の音楽の抜粋を与えられた参加者は、はるかに長い抜粋(最大250秒)を与えられた参加者と同様に曲をグループ化することがわかった

・音楽は動的な性質を持ち、時間をかけて連続的な情報を統合し、評価する必要があるため、上記の研究のような迅速な感情の分類は、音楽体験を完全に代表するものではないかもしれない

・音楽の知覚には、最初の情動知覚から始まり、その後の評価、調節、そして時間とともにこの情動が進化していくという時間的経過が含まれている

■連続的な反応を測定

Schubert(2004)は,4種類の音楽刺激に対して,参加者が2次元の感情空間で連続的に反応するという研究を行った

・モデルが因果関係のある音楽的/音響的な手がかりと情動事象との間の「ラグタイム」の近似値は,0秒から3秒の範囲

・この実験で使用された刺激セットは、4曲がすべてロマン派のレパートリーから選ばれたクラシック曲であったため、やや限定されたもの

・Grewe, Nagel, Kopiez, and Altenmüller (2007) が、6曲の長編音楽が、参加者の連続的な二次元評価、主観的な感情報告、および生体信号(皮膚コンダクタンスと顔面筋電図)に及ぼす影響を調査:刺激の音楽的特徴と3つの結果指標との間に有意な相関を見出すことができましたが、「どの刺激に対しても、3つの構成要素すべてに規則的に発生する感情事象」(p.786)は明らかにならなかった

・参加者の継続的な反応を収集するこの方法は、Schubert(1996)によって初めて用いられた方法

・参加者が音楽の感情的内容について最初の判断を下すのに必要な時間を測定するために用いられたことはない:私たちはこの時間を "統合時間 (integration time)" と呼ぶ

■メカニズムの仮定

・初期の感覚情報が知覚されるとすぐに情動処理が開始され、ジャンルや情動の内容に関する仮説が生み出される

・処理が継続されると、感覚ストリームから追加の音楽情報が常に取り込まれ、感情的な仮説の検証、改良、再検証が行われる

 ・再生開始から最初の動きまでの時間である「統合時間」とその方向性が、各楽曲の最後に参加者が行う総合的な判断の方向性と一致するかどうかには、有意な相関があることが予想される

・音楽的背景が強い被験者や、刺激のジャンルや抜粋に精通している被験者は、連続的な聴覚の流れと自分の感情仮説との比較・検証の反復回数が少なくて済み、統合時間が短くなると予測

 

方法

■参加者:ボストン大都市圏の日刊紙に掲載された広告によって81名の参加者(女性49名、男性32名)(19歳から82歳(年齢中央値=29歳))

・音楽的背景(楽器を習ったことがあるかどうか、どれくらいの期間、どれくらい熱心に練習したか、音楽理論の授業を受けたことがあるかどうかなど)と、音楽的嗜好(今聴いている音楽、子供の頃に聴いていた音楽など)に関するアンケートを実施

▶楽器演奏の経験が豊富な音楽家と、楽器演奏の経験がほとんどない人の2つのグループに分けた

・35名(男性14名、女性21名)が音楽家で、46名(男性18名、女性28名)がMIME

■刺激は,アンビエント,クラシック,エレクトロニック,ヒップホップ,ジャズ,ラテン,映画のサウンドトラック,ポップ,ロック,ソウル/ファンク,ワールドの11のジャンル

・60秒の長さの音楽の抜粋138曲で構成

・各曲の特徴を最もよく表す60秒の抜粋を選ぶことを指示

■手続き

・IAPS(International Affective Picture System)の絵を使って、感情の喚起と評価を行う課題を行った

・IAPSの絵は、非常に感情的に喚起され、非常にポジティブまたはネガティブな価数特性を持つもの、または感情価と喚起の両方が完全に中立なものを選択

・それぞれの絵について、感情価と覚醒度を数値で評価(それぞれ1〜10の尺度)

・この絵の評価の事前テストは、その後の音楽刺激に対する感情評価が、参加者の価数や覚醒度に対する誤解や異常な認識によって偏らないようにするための信頼性測定

・Flightstick ProブランドのUSBジョイスティックを使って刺激に対する反応を入力

■音楽評価の手続き

・刺激は3つのブロックに分けて提示され,それぞれのブロックには45から47曲の抜粋が含まれていた

・ジョイスティックを使って,音楽の情動的価値(音楽によって引き起こされるポジティブな感情またはネガティブな感情と定義)と覚醒度(音楽によって引き起こされる刺激的な感情または鎮静的な感情と定義)のレベルを,2次元のグリッド上の画面上のカーソルを介してリアルタイムに反応

・音楽に対する感情的な反応を感じ始めたらすぐにジョイスティックを動かすように指示

・ジョイスティックの位置とカーソルの位置に関するデータは,10Hzの周波数でサンプリング

・各曲の終わり(連続的なカーソル移動の終了後)に,参加者は,その曲の全体的な覚醒度と感情価のレベルを最もよく表す2次元の覚醒・価値観空間の点を1つ選ぶように求められた

・曲に対する親しみ度を0〜4で評価

・最初のブロックが終了した時点で、参加者は自分の音楽の好みについて質問

■データ分析

・統合時間(最初の反応までの時間)は,3種類の方法で測定

1.参加者がジョイスティックをまったく動かさなかったときのタイムスタンプ

2・3.画面上のカーソルが価/覚醒グリッドの原点からそれぞれ10ピクセルと50ピクセル離れたときのタイムスタンプに基づいて行った(カーソルのxとyの位置の二乗の平方根をとって,動きのベクトルの長さを求め,ベクトルの大きさが10と50よりも大きくなったときのタイムスタンプを記録)

・性別,音楽性,刺激の親しみやすさ(5カテゴリー),刺激のジャンル(11カテゴリー),音楽的嗜好(6カテゴリー),初期統合時間の関係を,各試験参加者内で行われた複数の測定値の相関を考慮しながら,反復測定線形回帰モデル(混合効果モデル)で検討

 

結果

■1〜3回の試行ブロックを完了した81名の参加者から積分時間の測定値が得られ,合計7076回の測定が行われた

■統合時間

・刺激の再生を開始してからジョイスティックを動かすまでの初期統合時間の平均は8.31秒(SEM = 0.10)

・いったんジョイスティックを動かし始めると,その動きは決定的なものとなり,原点を中心とした50ピクセル半径の円の外側にジョイスティックを動かしたときの平均初期統合時間は,わずか10.92秒(SEM = 0.12)で,わずか2.61秒後

・曲の親しみやすさが増すと、初期統合時間が有意に短くなり、F(4, 280) = 19.80, p < 0.01

・初期統合時間は,刺激のジャンルによって有意に異なり,F(10, 789) = 6.13, p < 0.01

▶クラシック、電子音楽、ジャズ、ソウル/ファンクの各曲に反応するのに平均7.56秒(SEM = 0.12)を要したのに対し、環境音楽や映画音楽を判断するのに平均10.16秒(SEM = 0.24)を要した

・初期統合時間は、参加者が自己申告した音楽の好みと刺激のジャンルが同じである場合に、有意に短くなった

・刺激のテンポは初期統合時間の強力かつ統計的に有意な予測因子:刺激のテンポが1拍/秒増加するごとに,初期統合時間が1.40秒(SEM=0.20;F(1,6581)=53.20,p<0.01)減少することが確認

■音楽家と非音楽家の間で統合時間に有意な差がなかった

 

考察

■覚醒度や価動度の判断には,単純に音楽ジャンルを分類するのではなく,現在知覚している刺激と過去に経験した情動刺激との比較に基づいて,どの次元の組み合わせが自分の情動反応に最も適しているかという,より認知的な評価プロセスが含まれているのかもしれない(Bigand, Filipic, & Lalitte, 2005)

・感情や情動に関する判断は、ジャンルなどの刺激に固有の特性に関する判断よりも、参加者の内省を必要とする可能性

■音楽に対する情動反応の時間経過を測定する際には,少なくとも11.00秒の長さの刺激を使用することが考えられる

 

コメント

ジョイスティックを用いた音楽への感情反応研究。感情を測定するというよりも感情が喚起が評価される最初の瞬間に注目しているのがユニークでたくさん引用されている理由だろう。

 

論文

Bachorik, J. P., Bangert, M., Psyche, L., Larke, K., Berger, J., Rowe, R., & Schlaug, G. (2009). Emotion in motion: Investigating the time-course of emotional judgments of musical stimuli. Music Perception, 26(4), 355–364. https://doi.org/10.1525/mp.2009.26.4.355