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鑑賞者は作品の制作過程を感嘆の念をもって認識する:先行体験を操作する実験で得られた証拠(Matsumoto & Okada, Psychology of Aesthetics, Creativity, & the Arts, 2021)

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みなさんこんにちは!

じんぺーです、今日も論文を読んでいきます。

 

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鑑賞者は作品の制作過程を感嘆の念をもって認識する:先行体験を操作する実験で得られた証拠(Matsumoto & Okada, Psychology of Aesthetics, Creativity, & the Arts, 2021)

結論から言うと、鑑賞前に創造的な体験をすることで、作品の制作過程に対する認識が変化し、作品に対してより肯定的な印象を持つようになることが明らかになった。

 

背景

■芸術鑑賞の情報処理段階モデル

・美的体験には「知覚」「明示的分類」「暗黙的分類」「認知的習得」「評価」の5つの段階

・特に、意味の発見に関わり、解釈や意味の割り当てなどのプロセスを伴う「認知的習得」が強調(Leder, Gerger, Dressler, & Schabmann, 2012; Pelowski, Markey, Lauring, & Leder, 2016)

・主観的理解と嗜好性の相関関係が不安定であるという実証データ(Jakesch, Leder, & Forster, 2013; Muth, Hesslinger, & Carbon, 2015)

■制作過程の認識と美的印象の関係

・作品の制作過程を認識するということは、制作者の行動や精神状態、個人的な特性、あるいは制作時の一時的な状況など、作品に関わる様々な制作特性を鑑賞者が認識することを意味する

・クロース(1902/1909, 1921)の「鑑賞者は創造者の活動を追跡し、想像する」という哲学的な理論の心理学的な対応

・Lederら(2004)のモデルでは明確に焦点が当てられていない、美術鑑賞の高次処理の部分と考えることもできる

・BullotとReber(2013)は、より広い文脈におけるアート作品の歴史的または文脈的情報の重要性を提案

・Pelowski, Markey, Forster, Gerger, and Leder(2017)は、アート知覚におけるトップダウンプロセスとボトムアッププロセスのウィーン統合モデルにこの考えを採用した

▶しかし、これらの理論に基づいた実験研究はほとんどない

・作品の制作時間や制作の意図など、作品の制作過程について参加者に提示する情報を明示的に操作する先行研究

・作品の制作過程の難易度を高く評価すると、作品に好印象を抱く傾向があった

■制作の難易度を評価することは、鑑賞者が制作過程を自己と他者(制作者)との間で社会的に比較することに直結するため、制作過程の認識と美的印象との関係を社会的比較感情に沿って説明することができうる

・鑑賞者は作品の創作を評価する際に、上方比較(Onu, Kessler, & Smith, 2016)によって、美的印象の一種である感嘆を感じる可能性が高い

■創造のプロセスを精神的側面と物理的側面の2つに分ける

・精神的側面:創作中の作者の考え、思考、感情に関するもの

・独創性などの精神的要素において、自分は他人のように作品を作れないと視聴者が思っている場合、創造のプロセスの難易度は精神的側面において高いと評価される

・物理的側面:制作者が作品にどのように物理的に関わっていたかに対応するもので、より頻繁に検討(例えば、Leder, Bar, & Topolinski, 2012; Ticini, Rachman, Pelletier, & Dubal, 2014など)

・制作者が非常に器用な指で作品を作ったと思うと、物理的な側面から制作過程の難易度が高いと評価

■クリエイティブな経験がアート鑑賞に与える影響

・鑑賞の直前に作品制作を経験した人は、鑑賞中に自分や他人の制作過程を意識するようになると考えられる

・一般的に人は対象を認識する際に長期記憶から活性化された知識を参照する傾向があるという事実に基づく(Rholes & Pryor, 1982)

・Ishiguro and Okada (2012) は、初心者が数ヶ月間写真撮影の練習をすると、他人の写真の背後にあるプロセスを認識するようになることを発見

■感嘆

・Dietzner, Solom, Frost, Parsons, and Davidson (2008)のような少数の事例を除いて、芸術鑑賞の実証研究ではほとんど測定されていない

・美学の領域では、芸術鑑賞の重要な側面とみなされている(Dewey, 1967; Dutton, 2009)

・芸術作品の鑑賞などの直接的または間接的な方法で「基準を超えた技術や才能を持つ人たちによって引き出される」別の焦点の感情を感嘆と定義

■創作折り紙

・創作折り紙では、創造の物理的側面と精神的側面を定義し、検証することが比較的容易

・日本の参加者の多くは、子供の頃に物理的な面を中心とした通常の折り紙作りを経験していますが、創造的な折り紙の経験はほとんどない

・創作折り紙は、短時間の実験で扱いやすい

・通常、参加者が創造的な活動を研究のために十分に経験するには非常に長い時間が必要であり(例えば、石黒・横澤・岡田[2016]は3ヶ月間の大学の写真講座で同様の手法を用いた)

 

方法

■参加者:東京大学の大学生・大学院生46名(女性22.2%、年齢23.00歳、SD=3.62)

・創造、部分創造、非創造の3つの条件にランダムに割り当てられた

・創造条件では、参加者は精神的、物理的な側面を含む創造のプロセスを体験

・部分的創造条件では、参加者は、精神的側面が活性化されていない創造のプロセスを経験

・非創造条件では、参加者は創造とは無関係の認知的負荷を課す課題を行った

■刺激

・創作折り紙の専門家が実験のために作成した29種類のオリジナル作品の写真を、ポストテストで提示する画像として使用

■手続き

・プレテスト、トリートメント、ポストテストの3つのセッションで構成

・プレテスト:プレテストの画像は,ランダムな順序で提示された.被験者には,それぞれの刺激が出現してから5,000ms後に,その刺激をどれだけ気に入ったかを報告するよう求めた

・トリートメント:参加者は割り当てられた条件に従って約40分間のタスクを実行

・創造条件:鶴(10分)▶UFO(10分)▶オリジナル(20分)

・部分創造条件:鶴(10分)▶UFO(10分)▶鶴とUFOを交互にできるだけ多く作る(20分)

・非創造条件:sudoku(易)▶sudoku(中)▶sudoku(難)

・ポストテスト:刺激の開始から20,000ms後に,その刺激をどれだけ気に入ったかを報告するよう求められた

・すべての画像が1回提示された後、折り紙の画像が提示されていない状態で、作品を作る過程の各側面についてどれだけ意識したかを報告してもらった

・すべての画像を新たにランダムに提示し、各作品の制作過程における精神的側面の難しさ(以下、精神的制作の難しさ)、物理的側面の難しさ(以下、物理的制作の難しさ)をどのように評価したか、各作品をどの程度感嘆したか、作品が意味的に何を表しているかをどの程度理解したと思うか、という4つの質問を行った

 

結果

■創作過程の認識:事前の経験に創造の精神的側面

・コントラスト係数は、創造条件では1、部分創造条件と非創造条件では-0.5とした

・その結果、両者の間には、F(1, 42) = 4.25, p = .045, d[psi] = 0.65 (95% CI [0.01, 1.28])という有意差

■物理的な創造の意識に関する得点

・条件間で有意な差は見られず、F(2, 42) = 0.41, p = 0.067

▶創造的な折り紙において、精神的な側面に比べて、物理的な側面の重要性が低い

■美的印象:プレテストのスコアを共変量とした一元配置共分散分析

・好感度:条件間で有意差 F(2, 41) = 4.55, p = 0.016, [eta]2 = 0.18 (95% CI [.01, .36])

・作成条件と非作成条件の間に有意な差が認められた(p = 0.041)

・感嘆:F(2, 41) = 3.93, p = .027, [eta]2 = .16 (95% CI [.00, .33])と,条件間で有意な差

・作成条件と部分作成条件の間に有意差が認められた(p = 0.037)

・創造条件と非創造条件の差は、わずかな傾向にとどまった(p = 0.074)

■創作過程の認識と美的印象の関係

・モデル1:意識のスコアの係数が有意に正であった(標準化回帰係数b*=0.40,p=0.006)

・モデル2:心象風景の困難さの係数は有意に正であった(標準化回帰係数b* = 0.57, p < 0.001)

 

研究2

■背景

・既存の作品群(高難易度画像)に加えて、初心者の作品(低難易度画像と表示)を刺激として加えた

・「なぜ創作を体験すると鑑賞者の作品に対する印象がポジティブになるのか」という問いに答えることができない

・プロトコル分析を採用:プロトコル分析は、認知プロセスを詳細に記述するのに有用であると指摘されている(Ericsson & Simon, 1993)

・創造のプロセスを体験する際に、(c)鑑賞者が頻繁に記憶にアクセスし、比較することが、(b)創造のプロセスの詳細な認識をもたらし、それが(a)自信と深い感嘆につながると推測

■方法

・参加者:東京大学の大学生・大学院生38名(女性32%、年齢21.81歳、SD1.80)

・2(創作経験、between)×2(折り紙作品の種類、within)のデザイン

・創造条件と非創造条件に1:1の割合で無作為に割り当てられた

・刺激:6枚(これらの作品の半分は、研究1のテスト後の画像の作品から高難易度の画像を選んだ。残りの半分は、難易度の低い画像として、大学生と大学院生の初心者が作成した作品の画像を使用)

・手続き:プレテスト、トリートメント、ポストテスト1(口頭報告)、ポストテスト2(評価)

・ポストテスト1:高難易度の画像と低難易度の画像がランダムな順序で提示され、被験者は再び声に出して考えながら、それぞれの画像を見た

・それぞれの画像が表示されてから100秒後に、被験者は次の画像に進むためのボタンをクリックできるようになった

・画像を表示しているモニターの横に設置したボイスレコーダーで録音

・各カテゴリーの発話頻度を0〜6の範囲で採点

■結果

・美的印象の混合因子二元配置分散分析

・好感度:条件、F(1, 36) = 5.33, p = 0.027, [eta]p2 = 0.13 (95% CI [.00, .33])、アートワーク、F(1, 36) = 64.30, p < 0.001, [eta]p2 = 0.13 (95% CI [.00, .33])の両方で有意、交互作用は非有意

・感嘆:条件,F(1, 36) = 5.17, p = 0.029, [eta]p2 = 0.13 (95% CI [.00, .33]),およびアートワーク,F(1, 36) = 162. 69, p < 0.001, [eta]p2 = 0.82 (95% CI [.69, 0.87])であった、交互作用は非有意

・作品制作のプロセスの困難さの評価:作品の主効果は有意であり,F(1, 36) = 109.38, p < 0.001, [eta]p2 = .75 (95% CI [.59, .83]) であったが,その他の効果は,両条件ともに有意ではなかった

・評価に対する自信度:条件,F(1, 36) = 5.87, p = 0.021, [eta]p2 = .14 (95% CI [.00, ...])ともに主効果が有意であった。 34]),アートワーク,F(1, 36) = 24.48, p < 0.001, [eta]p2 = .64 (95% CI [.16, .58])の両方で主効果が有意、交互作用は非有意

難しさの次元自体はクリエイティブな経験にあまり影響されないのに対し、視聴者が難しさの認識に自信を持つ度合いは、クリエイティブな経験に敏感であることを示唆

・言語報告:各カテゴリーにおける条件間の差を検定

・(a)作品制作過程における精神的側面の認識,U = 83.50,p = 0.003,(b)作品制作過程における精神的側面の描写,U = 71.50,p = 0.001,(e)鑑賞者自身の経験への言及,U = 91.00,p = 0.001,(f)自分との比較,U = 104.50,p = 0.014においてのみ,条件間で有意な差が見られた

 

コメント

お世話になっている東大の方の研究(改めてゆっくり読んでみた)。理論的背景がしっかりしていて(かつロジックも伝わりやすい)、デザインも分析も美しいなあと思う。このまま真似しても(俳句に転用)おもしろいと思うけど、もう少し言語芸術のうまみをはっきりさせてから、実験に臨みたい。

 

論文

Matsumoto, Kazuki & Okada, Takeshi. (2021). Viewers Recognize the Process of Creating Artworks With Admiration: Evidence From Experimental Manipulation of Prior Experience. Psychology of Aesthetics, Creativity, & the Arts, 15, 352-362. https://doi.org/10.1037/aca0000285