線の引き方を想像する:視聴者の評価と心拍数に基づく書道鑑賞の促進要因について(Matsumoto & Okada, Frontiers in Human Neurosience, 2021)
みなさんこんにちは!
じんぺーです、今日も論文を読んでいきます。
線の引き方を想像する:視聴者の評価と心拍数に基づく書道鑑賞の促進要因について(Matsumoto & Okada, Frontiers in Human Neurosience, 2021)
結論から言うと、書道を目でなぞって見るように指示された被験者と,自由に考えたり想像したりするように指示された被験者を対象に,2つのウェブ実験を行った結果、なぞり書きの方が、鑑賞者の憧れや感動、共感をより強く引き出すことが明らかになった。
背景
■書道
・カリグラフィーは、文字の理想的な見た目を追求して書かれたものであり(書家と見る人の両方にとって)、人々の筆跡の好みを研究する上で豊かな意味を持つ
・芸術としての書道を探求する上で、美学の心理学の理論を参考にして、深い議論をすることができる
■芸術鑑賞と鑑賞者の作品制作過程の認識
・最近の研究では、鑑賞者が作品の物理的特徴を自分の記憶や知識と(意識的か否かにかかわらず)統合する心的プロセスが、鑑賞者の印象を決定する上で重要であることが示されている
・Tinio (2013) の研究によれば、アートの制作と鑑賞は対称的な関係にあり、鑑賞者はアーティストの制作過程を逆にたどることになる
・アートが因果的・歴史的な情報を伝える
・Juckerら(2014)は、一般人が対象物をアートと定義し(またはそうでないと定義し)、それをどのように好きになるかは、アーティストが意図的に作品を制作したかどうかに関するような、鑑賞前に与えられるアーティスト関連の指示に影響されることを実証
・美的体験の重要な決定要因が創作体験なのか、それとも作品を作る過程の捉え方なのかは未解決であり、Matsumoto and Okada (2019) は事後的な相関分析から後者を示唆
■光電式容積脈波(PPG)による心拍数の推定
・PPGは、皮膚表面に毛細血管がある組織領域(指や耳たぶなど)の血液量の相対的な変化を把握する非侵襲的な光学的手法で、心拍や脈拍の検出にも利用でき、近年採用が増えている
・美学の心理学においてよく採用される生理学的パラメータ
・多くの研究が、自律神経系の活動(心拍など)と情動感情(前帯状皮質などの脳領域が介在する、Critchley et al.2013;レビューはKreibig, 2010参照)の関連性を探っている
・は退屈しているときに高い心拍数を示す傾向が (London et al., 1972; Merrifield and Danckert, 2014; Raffaelli et al., 2018)
・特別な装置を使わずに市販のスマートフォンを介してPPGが得られることが示唆(Kurylyak et al.2012; Garcia-Agundez et al.2017; Guede-Fernández et al.2020)
研究1
■参加者:103名
・トレース法を用いたオリエンテーション(「トレース群」;n=34)、トレース法を用いないオリエンテーション(「トレースなし群」;n=34)、オリエンテーションを行わない(「コントロール群」;n=35)の3つの条件に無作為に割り当てた
■刺激
・4つの書道作品
・基準:古典的な作品であること、句が簡潔で読みやすい文字が使われていること、現代の書体とあまり変わらず、書道の初心者でも読みやすいと思われること
■手続き
・書道をどのように見るべきかを示唆する文章を読んだ
・実験刺激を3分間ずつ順次提示した
・(1)書道のみ、(2)書道と同じ文字が印刷されたフォントで書かれたもの、(3)書かれた文字の意味や作者の名前、生没年などの情報が簡単に書かれたもの、の3つの画像を1つずつ表示
・各刺激の提示後,被験者には,提示された各作品を好きになる度合いと,各作品に書かれた言葉の意味を好きになる度合いを測る2つの7点リッカート尺度に答えてもらった
・すべての刺激を1回提示した後、他のリッカート項目(感嘆、共感、想像力、創作過程の認識(精神的・肉体的な各側面の認識)、インスピレーションに回答
結果
■物理的創造の意識
・トレース群と対照群の間で、b = 1.48, t(97) = 5.20, p < 0.001と、トレースなし群と対照群の間でも、b = 0.89, t(97) = 3.14, p = 0.006と、有意な差が見られた
■精神的創造の意識
・前者と同様に、トレース群と対照群の間でb = 1.00, t(97) = 3.15, p = 0.006、トレースなし群と対照群の間でもb = 1.18, t(97) = 3.75, p < 0.001と、有意な差が見られた
■美的印象
・感嘆:トレース群と対照群の間でのみ、b = 0.79, t(97) = 2.42, p = 0.045と有意な差があった
・好感度:いずれの条件にも有意差なし
・インスピレーション:トレースグループとコントロールグループの間でのみ、b = 0.93, t(97) = 2.46, p = 0.041の有意差
・共感:トレース群と対照群の間にはb = 0.70, t(97) = 2.40, p = 0.048の有意な差
研究2
■参加者:ウェブに接続された自分のコンピュータを使って実験に参加した81名
・トレースなしグループを除外
■手続き
・研究1との唯一の重要な違いは,研究2では,参加者が自分のカメラ付きスマートフォンを使って,左手人差し指の先端の皮膚の動画を撮影する必要があったこと
・図を使って30秒間の皮膚の記録を試行してもらった
・実験刺激が3分間にわたって順次提示されると,被験者は刺激提示の間ずっと指の動きを記録し,その都度,記録を止めて取り直した
■PPG
・(1)参加者から提出されたすべての動画ファイル(スマートフォンの機種やフレームレートの設定が異なる)を30フレーム/秒に変換する前処理
・(2)各フレームにおいて、RGBの赤の強度を持つ全画素の平均値を算出し、各時点での「明るさ」の指標とした
結果
■身体的創造の意識
・条件、b=0.76、t(74)=2.46、p=0.016、書道を見る頻度、b=0.76、t(74)=2.55、p=0.013で効果が有意
■精神的創造の意識
・すべての予測変数で効果が有意ではない
■美的印象
・感嘆:条件、t(74)=2.01、p=0.048、視聴頻度、t(74)=2.10、p=0.039でのみ有意な効果
・インスピレーション:鑑賞頻度にのみ有意な効果が認められた t(74) = 3.44, p < 0.001
■心拍数
・トレーシンググループでは、hb、hp1、hp2の平均(SD)は、それぞれ81.52(10.50)、82.37(13.10)、82.44(12.41)回/分
・対照群では、それぞれ79.27(8.47)、79.40(8.24)、78.73(7.31)回/分
・第2時間帯では、視聴頻度ではb = -0.05, t(42) = -2.13, p = 0.039、交互作用ではb = 0.08, t(42) = 2.28, p = 0.028と有意な効果
▶ポストホック分析によって交互作用の性質を調べるために,鑑賞頻度のスコアに基づいて参加者を2つのグループに分けた
・低頻度群ではb = -0.05, t(27) = -2.08, p = 0.047と有意な効果があったのに対し、高頻度群ではb = 0.07, t(10) = 1.05, p = 0.320と有意な効果はなかった
コメント
2日連続松本さんらの研究。前回の研究とも一貫しているし、チャレンジングな指標も取られていてすごい。さらっと書いていたけど、作品の好感度と文字の意味の好感度の相関が高いのも少しおもしろい。
論文
Matsumoto K and Okada T (2021) Imagining How Lines Were Drawn: The Appreciation of Calligraphy and the Facilitative Factor Based on the Viewer’s Rating and Heart Rate. Front. Hum. Neurosci. 15:654610. doi: 10.3389/fnhum.2021.654610