アートに触発される:美的魅力が高ければ高いほど、創造的な文章を書く作業において、心の中のインスピレーションが高まる(Welke et al., PACA, 2021)
みなさんこんにちは!
じんぺーです、今日も論文を読んでいきます。
アートに触発される:美的魅力が高ければ高いほど、創造的な文章を書く作業において、心の中のインスピレーションが高まる(Welke et al., PACA, 2021)
結論から言うと、感動条件と非感動条件でインスピレーションの度合いに差があり、インスピレーションの評価は、作成したテキストの量と正の相関があった。
背景
■性格特性のレベルと創造性
・発散的・収束的思考能力(Guilford, 1950によって導入された)、一般知能、開放性(またはopenmindedness; Jauk et al., 2014)など
・特性レベルの創造性とドーパミン神経系などの神経系との関連が指摘(Boot et al, 2017)
・デフォルトモードネットワーク(Boccia et al., 2015; Gonen-Yaacovi et al., 2013);実行制御ネットワーク(Santarnecchi et al., 2017);および脳システム間の機能的結合性(Beaty et al., 2018)などの神経システムとの関連付け
・人の創造性は、生涯にわたって(Baer, 1994; Scott et al., 2004b; Torrance, 1968)だけでなく、数日、数時間、あるいは数分のうちにも変化することがある
■創造的思考の心理的メカニズムを瞬間的に理解するプロセスモデル
・アイデアや解決策を生み出したり,斬新な成果物や製品,パフォーマンスを生み出したりする,一連の精神的な操作や行動
・(古典的には)創造的なプロセスは、時間的に分離できる4つの異なる段階(準備、インキュベーション、イルミネーション、検証)で構成される
・むしろ(a)問題の発見、形成、再定義、(b)発散的思考、(c)情報の組み合わせと再編成、(d)分析的評価プロセスなどの一連の重要なサブプロセスを強調する傾向
・創造的なひらめきとは、創造的な活動に対するモチベーションが高まっている状態であり、次の3つの主な特徴を持つ:外部の対象物や内部の思考プロセスなどの刺激によって呼び起こされることが多いことを意味する「喚起」、具体的な現実を超えた可能性を感じることを特徴とする「超越」、喚起されたアイデアを具体的な対象物や行動の形にしたいという欲求である「接近動機」
・創造的なひらめきのきっかけは、どんなものでもよいのですが、私たちは、強烈な美的体験が特に効果的なきっかけとなることを提案
■強烈な美的体験の発生は、「美的に感動している」という状態を評価することでよく特徴づけられる
・例示的な美的感情であり(Menninghausら、2019年)
・時に芸術に起因する寒気(Wassiliwizkyら、2015年)と関連しており
・異なる価数の、あるいは混合された感情状態から得られる美的反応を反映することがある(Menninghausら、2015年)
・神経レベルでは、アート作品に美的に感動することは、脳のデフォルトモードネットワーク(DMN; Belfi et al., 2019; Vessel et al., 2012, 2013)に関与し
・これは形質レベル(Beaty et al., 2018; Boccia et al., 2015; GonenYaacovi et al., 2013)および状態の創造性(Limb & Braun, 2008)とも関連
実験1
■方法
・25名の参加者のデータが解析対象(女性15名、男性10名、年齢18-55歳、中央値=25歳、男性=26.6歳、標準偏差=7.8歳)
・刺激:以前の研究で収集した109枚の絵画から選ばれた20枚の絵画で構成
・本研究のために絵画をサブセレクトしたのは、より大きな刺激セット(N=20名の評価者;Vessel et al.2018で発表されたデータ)の以前の美的評価研究から、7点リッカート尺度で少なくとも4の平均美的評価(「この絵画がどれだけ強くあなたを感動させるか」、下記参照)を持ち、20名の評価者のうち少なくとも30%が5.5以上の評価をしたものに基づいている
・統制群:遠隔連想テスト(Bowers et al.1990)で使用された刺激セットから、無関係な単語の3つ組を6つ選んだ
・手続き
・質問紙:PANASやSTAI、AREA(参加者の一般的な美的反応性を測定するツールで、「美的鑑賞」、「強烈な美的体験」、「創造的行動」の3つの関連する状態を経験する頻度を評価する項目)
・4つの段階:(a)特徴的な創造性を測定するための代替使用課題(AUT)、(b)美的評価の事前テスト、(c)インスピレーションを測定するための創作課題(図1参照)、(d)美的評価の事後テスト
・美的評価タスク(事前/事後)
・20枚の絵画を「この絵を見てどのくらい感動しましたか」という質問に対して、連続回答方式で評価:回答は、0(低い)から1(高い)までの数値として保存
・創作課題
・12個のプロンプト(図1参照)に応じて,短い創作文を作成するよう求められた:各作文期間中に感じたインスピレーションを自己申告してもらった
・お題は2つの条件に分かれていた:1つは「美的」と呼ばれるもので、先に行われた美的評価タスクで参加者が最も高く評価した6つの絵画から構成され、もう1つは「非美的」と呼ばれるもので、無関係な6つの単語から構成
・刺激の提示後,180秒間,タイピング,削除,改行の追加が可能な基本的なテキストエディタのインターフェースを用いて,プロンプトに対応するテキストを作成
■結果
・我々の仮説と一致して、ライティングタスクにおけるインスピレーション評価は、美的に感動する絵画(美的プロンプト)を用いたトライアルの方が、単語の三連符(非美的プロンプト)を用いたトライアルよりも有意に高かった
・美的課題の大平均インスピレーション評価(M = .63, 95% CI [.591, .675])は、非美的課題の大平均評価(M = .48, 95% CI [.438, .532])よりも高かった
・刺激のカテゴリーによる固定効果と,参加者と刺激によるランダム効果を用いた線形混合効果回帰モデルに,個人のひらめき評価をすべて当てはめた(「方法」を参照):刺激カテゴリはひらめき評価に影響を与えた(傾き=0.150,SE=0.026)
・形質レベルの創造性の役割を調べるために,AUT-fluencyスコアを2つ目の固定効果として交互作用を加えて,上記のLMMと同じモデルを作成:
・AUTスコアはひらめき評価に有意な影響を及ぼさなかったが(傾き=0.013、SE=0.013、Satterthwaiteの自由度法を用いてp=0.311)、AUTスコアとカテゴリーの間に有意な交互作用が見られた(傾き=-.023、SE=0.009、Satterthwaiteの自由度法を用いてp , 0.02):AUTスコアが低い人ほど、ひらめき評価に対するカテゴリーの影響が大きくなる傾向が見られた
実験2
■実験1は、美的なお題は視覚的な作品で構成されていたのに対し、非美的なお題は文字で構成されていた
・実験2では,刺激のモダリティ(ビジュアルアートとテキスト)の影響を排除し,ビジュアルアートのみを用いて,美的魅力と親しみやすさの影響を直接検討
・実験2では、3つのプロンプトカテゴリー:感動的な視覚芸術作品、感動的でない視覚芸術作品(いずれもライティングタスクの前に行われた美的評価タスクによって決定された)、そして、参加者にこれまで見せたことのない新規の芸術作品
■方法
・34名の参加者が分析対象(女性21名、男性13名、年齢19~53歳、中央値=24.5歳、M=27.3歳、std=8.7歳)
・刺激:24枚の絵画
・手続き
・実験1の質問票(PANAS,STAI,AReA)に加えて,Snaith-Hamilton Pleasure Scale(SHAPS,Snaithら,1995)を記入
・参加者が美的評価の事前テストで最も高く評価した4つの絵画(「moving」)、事前テストで最も低く評価した4つの絵画(「nonmoving」)、そして事前に評価されなかった4つの絵画(「novel」、参加者全員に共通)の3つの条件をヒントに創作課題
■結果
・感動絵画の平均的な美的評価はM = .86, 95% CI [.838, .876]であり,非感動絵画の平均的な美的評価はM = .20, 95% CI [.180, .226]であった
・動いている絵画を見て書くときの方が、動いていない絵画を見て書くときよりも高いインスピレーションを感じたと答えた
・動いている絵画のインスピレーション評価の平均値(M = 0.64, 95% CI [.596, 0.683])は、動いていない絵画のインスピレーション評価の平均値(M = 0.49, 95% CI [.441, 0.530])よりも高く、斬新な絵画のインスピレーション評価の平均値(M = 0.58, 95% CI [.533, 0.624])はその中間に位置
・動いているものと動いていないものの線形対比は有意であったが(傾き=0.126、SE=0.033、Satterthwaiteの自由度法によるp , 0.0002)、見慣れたもの(動いているものと動いていないもの)と新しいものの対比は有意ではなかった(傾き=0.018、SE=0.045、p=0.705)
・新奇な刺激に対するインスピレーション評価の平均値は,事前に体験した(親しみのある)作品に対する評価の平均値と有意な差はありませんでしたが,新奇な刺激に対するインスピレーション評価と,その後の(テスト後の)美的魅力の評価との間には線形関係が見られ
・AUT-fluencyスコアを2つ目の固定効果:AUTスコアのインスピレーション評価に対する負の効果(傾き=0.011、SE=0.005、Satterthwaiteの自由度法によるp , 0.04)が得られ、カテゴリー対比の相互作用はいずれも有意ではなかった(美的魅力との相互作用:傾き=0.011、SE=0.009)
プールされたデータ
■両実験のデータをプール
・ただし、ほぼ同一の条件で収集されたトライアル、すなわち、ライティングセッションの前後で美的魅力について評価された絵画刺激を用いたトライアルのみをプールすることにした(これにより、実験1の単語プロンプトと実験2のnovel絵画は除外した)
・n=59人(女性36人,男性23人,年齢18~55歳,中央値=25歳,M=27.0歳,std=8.3歳)の被験者から合計420回の試行
■結果
・すべてのシングルトライアルレベルの反応のペアワイズ反復測定相関
・最も相関が高かったのは、テスト前とテスト後の美的感覚の評価であった(r = 0.78)
・インスピレーションの評価は、テスト前とテスト後の美的感覚の評価と有意に相関したが、テスト後の評価の方がより高い相関を示した(テスト前:r = .31、テスト後:r = .45)
・テキスト数は他の評価項目と正の相関を示しましたが、インスピレーション評価との関係のみが有意になりました(r = .42)
・媒介分析の結果、テスト前の美的評価と作成されたテキストの量の関係は、評価されたインスピレーションを介して完全に媒介される
・創作→鑑賞の方向:感動することとインスピレーションを感じることが似ていることから、プロンプトについて書いているときにインスピレーションを感じることが、その後の美的魅力の評価に影響を与える可能性も考えられる:このような効果は、書いている最中に刺激の特定の特徴に注意が向けられ、それがその後の美的価値の計算に影響を与えるか、あるいは、インスピレーションが美的魅力に与えるより具体的な影響のいずれかによって引き起こされるかも
・インスピレーションの評価とテスト後の美的判断との間の相関は,テスト前の美的判断よりも有意に高かった
コメント
創作と感動の関係を見たおもしろい研究。あの媒介分析の結果は見事としか言いようがない。
論文
Welke, Dominik, Purton, Isaac & Vessel, Edward. (2021). Inspired by Art: Higher Aesthetic Appeal Elicits Increased Felt Inspiration in a Creative Writing Task. Psychology of Aesthetics, Creativity, & the Arts, Advance on-line publication. Retrieved from http://ovidsp.ovid.com/ovidweb.cgi?T=JS&PAGE=reference&D=paovftw&NEWS=N&AN=01269227-900000000-99524. https://doi.org/10.1037/aca0000393