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文化と美的選好:東アジア人とアメリカ人の文脈への注意を比較する(Masuda et al., Personality and Social Psychology Bulletin, 2008)

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みなさんこんにちは!

微かに混じり合う教育と心理学とアートを考えていますじんぺーです。

今日も論文を読んでいきます。

 

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文化と美的選好:東アジア人とアメリカ人の文脈への注意を比較する(Masuda et al., Personality and Social Psychology Bulletin, 2008)

結論から言うと、東アジアの伝統芸術は文脈を重視したスタイルであるのに対し、西洋の芸術は対象物を重視したスタイルであること、東アジアと西洋の現代人はこれらの文化的に形成された美的方向性を維持している。

 

背景

■文化心理学では、東アジア人は、カテゴリー化、因果関係の説明、論理的推論と弁証法的推論などの認知活動において、欧米人と系統的に異なることが示されている(Nisbett, 2003; Nisbett, Peng, Choi, & Norenzayan, 2001)

・東アジア文化圏(中国、韓国、日本など)の人々は、西洋文化圏の人々に比べて、文脈情報に大きな注意を払う傾向

■Rod and Frame Test

・約16平方インチ(約41cm)の枠を,枠内に置かれた棒とは無関係に回転

・そして、フレームの位置に影響されずに、棒が客観的に垂直に見えるタイミングを被験者に判断させた

・東アジアの参加者はアメリカの参加者に比べてミスが多く,フレームが作り出す文脈の影響を無視することがより困難であることが示唆

■なぜ東アジア人は欧米人に比べて文脈情報に敏感なのか?

・Masuda and Nisbett (2001; Nisbett & Masuda, 2003)は、東アジアの文化における社会的慣習が、社会的・文脈的な手がかりに対する人々の感受性を高めていると主張

・日本の子育てスタイルでは、一つの物の属性に注目するよりも、与えられた状況の中での文脈的な手がかりに注意を払うことが重要視

・彼らの実験では,顕著なマンガの人物が描かれた様々な画像が被験者に提示され,その背景には顕著ではない小さな人物が描かれていた:日本人の大学生は、アメリカ人の大学生に比べて、対象となる人物の感情を判断する際に、背景の人物の顔の表情に影響される傾向

・仏教、道教、儒教などの東アジアの思想は、「この世のすべてのものは相互に関係している」ということを強調する傾向

・一方、西洋の思想では、個々の対象物の属性やカテゴリーに注目して、その対象物をいかにコントロールするかを重視する傾向

 

研究1

■風景と遠近法の文化的差異

・個人主義という近代的な概念の出現と、16世紀に発明された西洋の遠近法の原理との関係については、さまざまな研究者が論じている

・東アジアでは、西洋の遠近法による写真的・分析的リアリズムは、近代になるまで試みられなかった(French, 1978, p.95):フィールドの情報を強調するために様々な方法が用いられてきた

・この方法では、西洋の遠近法とは異なり、画家の視点は描かれた対象物よりも高い位置にある

・東アジアの画家は「通常、影を描かない」:複数の視点を持つという技法を示す

・東アジアの描画技法では、地上の情報だけでなく空中の情報も含めて、必要なすべての文脈情報を含めることができる

・西洋の肖像画は、一般的に個人を描いたものであり、成功を記念したり、個人の存在を後世に記録したりと、さまざまな機能を持つ

・西洋の肖像画の伝統とは逆に、東アジアの肖像画は、個人を強調して文脈を犠牲にするようなことはない:モデルのサイズは比較的小さく、あたかもモデルが重要な背景シーンに組み込まれているかのよう

・広い空間を意図的に空けておくことで、東アジアの芸術の伝統で強く評価されてきた、顕著な視覚表現を和らげる要因としての「間」の感覚を享受することができる(Kenmochi, 1992; Minami, 1983)

■仮説

・東アジアの絵は西洋の絵よりも平均的な地平線の位置が高い

・東アジアの肖像画では、顔の大きさとフレーム全体の大きさの比率が、西洋の肖像画に比べて小さい

■方法

・ニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵する西洋絵画731点と、東アジアの4つの主要美術館(東京国立博物館、京都国立博物館、ソウル国立博物館、国立故宮博物院)が所蔵する東アジアの絵画660点を対象

・選択された画像は、「肖像」「風景」「シーンの中の人物」の3つのカテゴリーに分けられた

・欧米のWebサイトのデータベース検索では、「landscape」というキーワードで検索された画像を、東アジアのWebサイトのデータベース検索では、「山水画」というキーワードで検索された写真を分析対象

■結果

・風景:東アジアの絵画は西洋の絵画に比べて地平線の位置が有意に高いt(581) = 10.39, p < 0.001

・肖像画:東アジアの肖像画では、西洋の肖像画に比べて、顔の大きさと全体の視野の大きさの比率が大幅に小さくなっている t(415)=9.10、p<0.001

・シーンの中の人物:水平線の位置は東アジア人が西洋人の絵画よりも有意に高いことが示され、(t(399) = 6.08, p < 0.001) 視野全体の大きさに対する最大の顔の大きさの比は、東アジア人の方が西洋人の絵画よりも有意に小さいt(399) = 2.88, p < 0.005 

 

研究2

■1つ目の課題では、参加者に風景を描くように指示し、2つ目の課題は、簡単なズーム機能を備えたデジタルカメラを使って人物写真を撮影する

■方法

・参加者:43人のアメリカ人(白人37人、アフリカン・アメリカン6人、女性19人、男性24人)と東アジア人留学生46名(台湾人22名,韓国人7名,日本人5名,中国人12名,女性22名,男性24名)

・絵を描く課題:

・参加者に5分以内に風景画を描いてもらった

・最低でも家、木、川、人、地平線を描くように言われ、さらに自由に描き足してよいと言われた

・写真を撮る課題:

・被験者は、実験室のソファに座っているモデルの写真、壁際に立っているモデルの写真、建物のアトリウムの椅子に座っているモデルの写真、アトリウムに立っているモデルの写真の4枚のポートレートを撮影するように指示された

■結果

・地平線の位置とフレーム全体の比率、付加物の数を分析

・東アジア人が描いた水平線の平均的な位置は、アメリカ人が描いたものよりも画面内で19%高い t(87)=2.98、p<0.005

・東アジア人はアメリカ人よりも文脈上のオブジェクトを74%多く描いていることがわかった

・写真撮影課題

・2(文化:アメリカ人vs.東アジア人)×4(場所)

・文化の主効果がF(1、76)=6.77、p<0.02が見られた:東アジア人(M = 3.37, SD = 3.50)は,アメリカ人(M = 9.52, SD = 14.11)の写真に比べてモデルの大きさが35%しかない写真を作成

 

研究3

■人々が自分の支配的な文化的美意識に対応する画像を好むかどうかを調べた

■方法

・参加者:アメリカ人52名(西洋人50名、アジア系2名、女性27名、男性23名)と、京都大学の日本人48名(女性22名、男性26名)

・素材:16人のモデル(男子アメリカ人学生4人、女子アメリカ人学生4人、男子日本人学生4人、女子日本人学生4人)をシーンの中に配置

・文脈の広さ(刺激セット1)とモデルの大きさ(刺激セット2)を操作した。参加者は無作為にどちらかのセットを提示

・文脈の広さ:文脈の広さは,4種類のレンズ(28mm,50mm,100mm,140mm)を用いて操作した

・刺激セット1(図4)では,4種類のレンズ(極端に広い背景,標準的な背景,狭い背景,極端に狭い背景)を背景にして,同じ等身大のモデルが表示されているため,被験者は背景の違いにのみ注目して評価することができた

・図の大きさ:刺激セット1(図4)では,4種類のレンズ(極端に広い背景,標準的な背景,狭い背景,極端に狭い背景)を背景にして,同じ等身大のモデルが表示されているため,被験者は背景の違いにのみ注目して評価することができた

・実験者は参加者に,(a)数枚の写真を判断し,各写真を7段階のリッカート尺度(1=最悪,7=最高)で評価すること,(b)4枚の写真の中から最も良い肖像画を選ぶこと,を課題として説明

・人工的に合成された4枚の写真を同時に見た

■結果

・参加者の判断に関する主観的評価:日本人(M = 3.70)はアメリカ人(M = 4.89)よりも小さいモデルを好む傾向があることがわかった

・「分野の広さ」を指標とした「文脈の包括性」に関する嗜好性を測定したところ、日本人(M = 3.79)はアメリカ人(M = 4.57)よりも「文脈の包括的な写真」を好む傾向が強いt(99) = 1.99, p = 0.05

・2(文化:アメリカ人vs.日本人)×4(背景:極端に広い背景,標準的な背景,狭い背景,極端に狭い背景)のANOVA:レンズの主効果は、F(1, 98) = 12.05, p < 0.001、文化とレンズの相互作用があり、F(3, 98) = 7.04, p < 0.001

・「背景が極端に広い」、「背景が広い」、「背景が標準」の評価には、いずれも文化的な違いは見られませんでした(F < 1, ns)。しかし、「極端に狭い背景」の評価には有意な差が見られ、F(3, 98) = 7.86, p < 0.01

・一定の背景に対するモデルサイズの評価

・2(文化:アメリカ人vs日本人)×4(モデルの大きさ:0.75インチ,1.25インチ,1.75インチ,2.25インチ)のANOVA:モデルの大きさに対する主効果は,F(1, 98) = 35.82, p < 0.001

・文化とモデルの間には相互作用があり、F(3, 98) = 7.04, p < 0.001 :1.75インチモデルの評価には,F(3, 98) = 2.81, p < 0.10というわずかな有意差があり,2.25インチモデルの評価には,F(3, 98) = 16.90, p < 0.001という有意差

 

コメント

3つのオリジナリティあふれる実験で、東西の芸術的嗜好の差を明らかにした研究。この後、この類の芸術研究あまり流行らなかったのかな?これ以外にあまり重要な論文がなさそうなんだよなあ。。

 

 

論文

Masuda, T., Gonzalez, R., Kwan, L., & Nisbett, R. E. (2008). Culture and Aesthetic Preference: Comparing the Attention to Context of East Asians and Americans. Personality and Social Psychology Bulletin, 34(9), 1260–1275. https://doi.org/10.1177/0146167208320555