国の調査だけでは見えてこないこと 【教育系書籍レビュー④】『調査報告 学校の部活動と働き方改革』内田良ほか著
こんにちは😊
日々、教育と心理学について考えています、じんぺーです!
本日は少し久しぶりの書籍レビューですね!前回の本はこちらでした。
そして、今回の本はこちらです~
またしても、内田先生の名前が見えますね~
ぼくもまだまだ勉強中の身なので、あの先生の視点でまずは考えられるようになりたいと思っています。というわけで執拗レビュー笑
いってみましょう~
- 不易と流行
- はじめに:職員室のタブーに斬りこむ―内田良
- 第1章:そもそも全員働き過ぎているー太田知彩
- 第2章:今まであまり見える化されていなかった教員の意識ー野村駿
- 第3章:顧問やってる先生、その部活の経験ない説ー加藤一晃
- 第4章:保護者からの期待が部活動長時間化を導く!?ー上地香杜
- おわりに:魅力ある仕事だからこそー内田良
不易と流行
本文に入る前にこの言葉について考えてみましょう。
最初にこの言葉を使ったのは松尾芭蕉であると言います。
不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず
ー去来抄
普遍的なことを知らなければ基礎ができず、時代の変化を知らなければ新しい風をふかすことはできないとそんな解釈でいいと思います。
なぜ、この言葉を先に紹介したといいますと、
本書は「不易流行」の「流行」のほうだと言っておきたかったからです。
本書は昨年の調査結果をまとめて、今年11/6に発売されたばかりのめちゃくちゃ「流行」の本です。
こういう最新のデータを学ぶことで新しい風を吹かす一歩になればと思っています。
ちなみに「不易」の方は、何千年、何百年前から言われている教育哲学が当てはまります。
いずれ、「不易」と思われるルソーとか、デューイとかレビューしたいですね。
はじめに:職員室のタブーに斬りこむ―内田良
本書は5名の方が書かれていて、文量的には読みやすいので、一章ずつ書いていきたいと思います。
まず、導入は内田先生から始まります。
内田先生が最初にした「職員室のタブーに斬りこんでいく」宣言が実に気持ちいいです。
本書のみならず、先生が危惧しているのは、TwitterなどのSNS上では教員の働き方改革への関心が高まっている一方、実際の職員室では無風状態である点です。
それを、実態調査、しかも国ができないような調査によって「見える化」していこうとしています。
これは次章からが楽しみになってきましたね~
第1章:そもそも全員働き過ぎているー太田知彩
先に言っておきたいのは、この見出しにつけているタイトルは本書のタイトルではないということです。ぼくがこれから書くことのまとめ的に書いています。
この章では教員の働き方、特に部活動の実態について、詳しく書かれています。
注目すべきは今まであまりなされていなかった、職階、年代、性別、学校規模別の比較を行っている点です。
例えば、職階別に見てみると、主幹教諭、教諭、常勤講師の労働時間はほぼ同じだったことを挙げ、「そもそも全員働き過ぎている」とまとめています。
一方で、年代別で比べた時、その差がはっきりと表れたそうです。
みなさまの予想通りと思われますが、若手に行けば行くほど、労働時間が長くなっています。
これに対する太田さんの考察はこうです。
若い教員は、ベテラン教員と比べて授業準備等に時間がかかるといった要因は想定されうるものの、こうした教員の個人的な要因よりはむしろ、若手を対象にした各種研修や部活動指導など、教員個人の裁量では解消できない要因が若手教員の労働時間を長引かせていると考えられる。
ーp.11
たしかに、周りにそんな若手の先生いっぱいいますね…
第2章:今まであまり見える化されていなかった教員の意識ー野村駿
この本の最大の特徴は、教師の労働時間など国が調査を行う客観的実態だけでなく、教員がどのように感じているかという意識の部分に焦点が当たっている点です。
ぼくはできるだけその意識の部分をピックアップして行けたらなあと思っております。
1番分かりやすい例は「忙しさ×やりがい」です。
野村さんは、「忙しいと思うか?」という質問に加えて、「やりがいを感じるか?」という質問をしています。
忙しいと答えた教員は93%近く、やりがいがあると答えた教員も9割近くいるといいます。
教員の魅力の1つに「やりがい」というものがあり、最近はやりがいの搾取だと「やりがい至上主義」への批判がある中ではありますが(そんな自分もめっちゃしてました)、多くの教員がこのお仕事にやりがいを感じているというのは事実なようでした。
次に、これらのクロス集計、つまり「忙しさ×やりがい」を考えてみると、また別な視点が生まれてきます。
約8割の教員が仕事に忙しさを感じているかつ、やりがいを感じています。この先生方は忙しい中でもやりがいをパワーにして、日々お仕事に突き進んでいると考えられます。
一方で、仕事に忙しさを感じているかつ、やりがいは感じられない教員の方が約1割おられるそうです。
ぼくはこの後者の先生方を大変案じております。
「やりがい」を理由にして、長時間労働、ブラック労働をよしとするのは許せませんが、「やりがい」は過酷な労働に耐える最後の砦のようなものでもあると思っています。
それが、ない先生方。心か身体壊れてしまわないでしょうか。とても心配です。
この章ではこのほかにも、「部活動は生徒の問題行動の抑止に効果があると思うか?」や「部活動指導と教科指導の両方に秀でてこそ、1人前の教員と思うか?」など、今まで(あまり)なされてこなかった質問をたくさん取り扱っています。
コーヒーどうぞ。
第3章:顧問やってる先生、その部活の経験ない説ー加藤一晃
説というか、事実ですね。そういうことたくさんありますよね。
この章ではその数字も出ていて、「顧問をする競技・活動を中高生時代に経験したことあるか」という問いに対して、57.5%の先生が「経験なし」と答えています。
教員の数とか部活の種類によっては仕方ないことです(仕方ないで済ませたくない問題ではあるのですが)。これについて良い悪いを議論したいわけではありません。
この章で焦点を当てたのは、「経験なし」の先生とストレスの関係です。
結論から言うと、当該部活動の「経験なし」と答えた先生の方がよりストレスを感じています。
まあ、当然な気もしますね。やったことないスポーツや活動ですもんね。新しく練習したり、勉強したりする負担とか、「自分は経験ないのに教える」苦痛みたいなものもあるかもしれません。
そう答えた先生が「次年度顧問したくない」と答える傾向にもあるそうですね。
加藤さんは、そんな現状を見ていった後に、「部活動による負担を減らすために」という方向に議論をすすめます。
はじめに注目したのは、部活動顧問の外部委託。ぼくも興味があるところです。
(この話は昔の記事にかきました。)
しかし、財源の関係で難しいことも多いようです。
ぼくもなかなか難しいと思っていたところでした。
そんな困っていたぼくのもとにある言葉が届きます。
加藤さんは中澤(2017)を引用していますが、そのあたりをぼくも引きます。
お金がない以上、現状維持もやむをえないのだろうか。運動部活動研究者の中澤(2017)は、そう考えるのは早計だ、と指摘する。氏は、そのような考え方は2つの大事なことを忘れているという。
ーp.59
こっから面白いです、注目。
ひとつは、そのような多額の予算を必要とする仕事を、すでに教員が担っているという事実である。もうひとつは、外部委託の議論が、今の部活動の規模を維持する前提で進められていることである。部活動を外部委託して教員の負担を減らすことが難しいのならば、部活動の規模縮小も、選択肢に入れるべきだろう。
ーp.59
言われてみれば当たり前のことなんですが、「たしかに…」と思いませんか。
反発もありそうですが、個人的には「部活動の規模縮小」考えていくべきと思いますね。
第4章:保護者からの期待が部活動長時間化を導く!?ー上地香杜
この章では、教員の働き方(主に部活動)について、「タテ・ヨコ・ソト」からの期待という点で議論されています。
タテは管理職、ヨコは同僚、ソトは主に保護者のことです。
つまり、「管理職、同僚、保護者から部活動に熱心に取り組むように期待されているか?」というのが主要質問になります。
そして、その期待されていると感じる度合と教員の部活動立ち合い時間の関係が述べられています。
結果だけ述べると、「管理職」「同僚」「保護者」どこから期待を感じていても、それらは部活動の長時間化につながりうるという結果でした。その中でも「保護者」からの期待が最も立ち合い時間増加に繋がるという統計結果も出ました。
保護者との関係において、朝日新聞の記事を引きながらこう述べています。
決まりに従って平日の2日と日曜に部活動を休みにしたら、保護者から「なぜやらないのか」、「生徒のためなのに」と苦情が来た、または、日曜に部活を休みにすると「日曜に何をやっているのか」といった苦情の実態が教員の声として紹介されている。
ー『朝日新聞』2018年2月10日朝刊
「日曜に何をやっているのか」で戦慄が走ったのはぼくだけではありませんね。そんなことをいう人に、人間の心があるのか疑わしいです。
おわりに:魅力ある仕事だからこそー内田良
ちなみに内田先生が書かれたところだけタイトルそのまま拝借しています。
キャッチ―なタイトルつけますよね、、、(真似したい)
ぼくがとても考えさせられた1節を引いて終わりにします。考えさせられると同時に、胸が苦しくなります。
教師冥利に尽きる日々を送りながら、若くして命までもが尽きてしまったケースを、私はたくさん知っている。過労死というのは、本人がどれほどその仕事が好きだったのかに関係なく、等しく命を奪っていく。いや、むしろその仕事が大好きであるほど、過労死と隣り合わせになると言ったほうが正しいかもしれない。
ーp.82
こういうケースをたくさん知っている先生だからこそ、教育改革に向けてこんなに精力的に動くことができているのですね。
ぼくも周りの教員を助けたい動機はあります!!!頑張ります!!!
今回もここまで長い文章を読んで頂き本当にありがとうございます。
大学は学祭でしたね。いい日になりました。